https://mainichi.jp/articles/20180609/k00/00m/040/007000c

地裁の再審開始支持か覆すか 11日に高裁決定
毎日新聞 2018年6月8日 17時29分(最終更新 6月8日 17時29分)

最大焦点は新証拠と認めた「DNA鑑定の信用性」
 1966年に静岡市清水区(当時・清水市)で、みそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件で死刑が確定し、2014年の静岡地裁の再審開始決定で釈放された袴田巌元被告(82)に対し、東京高裁は11日、即時抗告審の結論となる決定を出す。地裁が再審開始決定の新証拠と認めたDNA型鑑定の信用性などを巡り、高裁が地裁の再審開始を支持するのか、覆すのかが注目される。争点や経緯をまとめた。【石山絵歩、古川幸奈】

 ■鑑定の信用性

 地裁の再審開始決定の主な根拠となったのが、本田克也・筑波大教授が行ったDNA型鑑定だ。確定判決(80年に最高裁で死刑が確定)が血液型鑑定の結果から「(袴田さんや被害者の)血痕が付いた犯行着衣」としていた衣類に関し、本田氏の鑑定は特別なたんぱく質を用いた独自の手法で「血痕は袴田さんや被害者と一致しない」と結論付けていた。

 即時抗告審では、高裁が検察側の求めを受け、本田氏の鑑定の検証を決定。鈴木広一・大阪医科大教授が検証を行い、「本田鑑定の特別なたんぱく質はDNAを分解する成分を含み、手法は不適切」との意見書を出した。高裁がこの検証結果を踏まえ、本田氏の鑑定の信用性についてどう判断するのかが最大の注目点だ。

 ■衣類の変色

 「犯行着衣」は事件発生から約1年2カ月後に、袴田さんが勤めていた工場のみそタンク内から見つかった。この時、既に袴田さんは逮捕・起訴されて1審公判が始まっており、検察側は「事件時にパジャマを着ていた」との主張を「(新たに見つかった)5点の衣類を着ていた」と変更、確定判決は後者を「犯行着衣」と認めた。

 これに対し、14年の地裁決定は、弁護側のみそ漬け実験の結果を踏まえ「長期間みその中に隠されていたと考えるには、衣類の色が薄過ぎ、血痕の色も赤みが強すぎる」として「(捜査機関側による)捏造(ねつぞう)の疑い」に言及した。

 即時抗告審では、検察側もみそ漬け実験を行い「みその液汁がしみこむと、衣類の色は薄くなる。血痕の色は血液の量などによって差異が生じる(ため一概に言えない)」などと反論。弁護側は「衣類の色は、弁護側実験の結果を見ても濃くなければおかしい。血痕の色は、検察の実験結果でも(弁護側実験と同様に)黒くなっており、(赤みが強いという)変色の不自然さを裏付けた」と主張している。

 ■テープ開示

 即時抗告審で検察側は、袴田さんの取り調べ状況の一部を録音したテープ(約48時間分)を開示した。弁護側はこのテープの録音内容を反訳し、心理学の専門家にも分析を依頼した結果に基づき「無実の人が強制と誘導により、捜査側の意に沿った供述をしていく過程が残されていた」と主張。テープを無罪の「新たな有力証拠」と位置付けた。

弁護団は早期の再審無罪判決を求める

 袴田さんは4年前の釈放直後は家にこもりがちだったが、最近は姉秀子さん(85)と遠出したり、1人で買い物もしたりするようになった。しかし、妄想めいた話をすることもあり、弁護団は「死刑を執行されるかもしれないという恐怖感が妄想の根底にあり、今も拘置所内にいた時の精神状況と変わっていない」と、早期の再審無罪判決を求めている。