◆殺人と無罪を分けたのは遺体の落下位置 兵庫の女性転落死事件

暴力を振るわれた後、ビルの5階で口論になり、女性はビル階下の路上で遺体で見つかった−。
兵庫県加古川市で平成27年に起きた事件。

ビル1階でスナック経営の女性=当時(32)=の背中を蹴った後、5階から転落させて殺害したなどとして、交際相手だった男(53)が殺人や暴行などの罪で起訴された。
大阪高裁は7月5日の控訴審判決で、暴行罪などを有罪としたが、1審神戸地裁姫路支部に続いて殺人罪は無罪とした。
女性が死亡する直前に男に暴行されていたことが認められながら、なぜ殺人罪は無罪となったのか。

■スナック客が途切れず…暴行

控訴審の判決文などによると、2人は知人の紹介で知り合い、平成27年5月ごろには交際を始めた。
事件が起こったのはその4カ月後の9月22日だった。
兵庫県加古川市のJR東加古川駅近くの繁華街。
女性の経営するスナックは5階に入居していた。
その日は、男の家に女性が行くことになっており、男は午前1時過ぎに女性のスナックを訪れた。

だが、来店客が続いていた。
男は女性との時間が取れなくなったと考え、店を後にする。
その際、1階エレベーターホールで男は見送りに出てきた女性に暴力を働いた。
しばらくして、男は午前2時45分ごろ、スナックのあったビル5階に戻る。
そこで女性と再び口論になり、直後に、女性は5階通路から転落死した。

捜査段階では、男が女性をビルの1階で暴行しているのを目撃されていたとされる。
また、同じ年の8月、男は電話で「蹴り回したろか」「くそー、殺してもうたろかほんま」などと女性を脅していたという。
兵庫県警は殺人容疑で男の逮捕状を取って行方を捜していたところ、男は警察署に出頭。
男は殺人と暴行、電話での脅迫の3つの罪で起訴された。

■「突き落とし」は真下に落ちない?

男は捜査段階から「落としていない」と殺人罪を否定し、焦点は同罪が成立するかにしぼられた。
目撃証言や犯人に直結する物証などのない中、判断の決め手になったのは、女性が転落した位置だった。
1審判決によると、女性は、ビルの側壁から50センチも離れていない位置で倒れている状態で見つかった。
男の弁護人は「一般にビルから突き落とされるなどした場合、転落した人は放物線の軌跡を描いて落下する。

そのため、転落した人は建物からある程度離れた位置で発見されるのが通常」とし、女性を殺害しようと突き落としたりしたのであれば、女性はビルから離れた場所で見つかったはずだと主張。
ビルの真下で見つかったということは自殺の可能性がある、と訴えた。
これに対し、検察側は「落とされることに抵抗する女性と、落下させようとする男の力が均衡状態になれば、落下位置については(真下に落ちることも)想定可能だ」と反論した。

■「落下位置の捜査は不十分」

対立する検察側と弁護側。
1審神戸地裁姫路支部は「(女性が)とっさに飛び降り自殺したと見ても、致命的に不自然とみられる点は認められない」として、暴行罪の成立のみを認めて殺人罪を無罪と判断。
検察側の懲役22年の求刑に対し、懲役1年4月を言い渡した。
判決は、女性が事件当時に精神的に不安定だったとした上で、女性の爪の間から男のDNA型が発見されなかった▽現場周辺から女性の指紋が検出されなかった−など、女性が抵抗した痕跡が見当たらないことを重視。
女性の落下位置などを含めた現場の状況や一連の経過を踏まえ、「被告が女性を落下させたことが、合理的な疑いを差し挟まない程度にまで立証されているということはできない」とし、殺人罪の成立を否定した。

この判決を不服として検察側は控訴。
だが、控訴審でも「殺人罪は無罪」という結論は変わらず、さらに控訴審判決は女性の落下位置の検討に関連し、検察側の立証不足を指摘した。
「捜査機関が行った実験は、被害者の着地位置と整合するような殺害方法を見いだすことに重点が置かれている。
着地位置と整合するような自殺方法があるかという観点に基づく実験は十分に行われていない。基本方針からして不十分だった」

産経WEST 2018.7.25 06:30
https://www.sankei.com/smp/west/news/180725/wst1807250004-s1.html

※続きます