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潜伏キリシタンが伝承、禁教期の元号入り暦発見
2018年9月9日 18時48分

 「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産がある五島市・奈留島で、江戸時代の1850年(嘉永3年)の日付やキリスト教の記念日が記された潜伏キリシタンの暦が見つかった。1614年の禁教令発令後、1859年の開国までは国外から宣教師が入ってきていないことから、専門家は「禁教期に信者が暦を伝承したことを裏付ける貴重な証拠」と注目している。

 暦があったのは、世界文化遺産に登録されたキリシタン関連遺産の構成資産「奈留島の江上集落」と同じ西海岸に位置する同市奈留町浦、水産会社経営吉田茂樹さん(65)の自宅。先祖を祭る祭壇で杉箱に入れたままになっていたのを、「禁教期のキリシタン研究会」の柿森和年世話人が確認した。

 暦は十数ページの和紙に書かれ、「嘉永」の元号の日付が入っている。マリアがイエスを身ごもった受胎告知を祝う2月26日の「さんた丸や」(サンタマリア=聖母マリア)の記述から始まり、日曜日を意味する「どみんご」、日本で宣教が始まった日などが記されている。同じ内容を新しい和紙に書き写したものもあり、劣化した暦を更新したとみられる。

 暦の内容は、1634年の教会暦を日本の太陰暦に改編し、年間行事や儀礼の基準とされた「バスチャン暦」とほぼ同じ。潜伏キリシタンが信仰を続ける上で欠かせず、暦を管理する役職者が組織のリーダーを務めるほど重視されていた。

 暦が保管されていた杉箱には、殉教者の衣服とされる布きれも入っていた。集落では、隠れキリシタンの組織が昭和40年代まで残っており、死者を送る際に衣服の切れ端を持たせる習慣があったという。

 柿森世話人は「潜伏キリシタンの暦は各地で見つかっているが、元号が入っているものは珍しい。時代が分かる暦の中では、最も古い部類になるのではないか」と指摘。吉田さんは「先祖が代々伝承してきたもので、これからも大切に保管していきたい」と話した。(坂田元司)

奈留島で見つかった潜伏キリシタンの暦。右上が古い暦で、左上が新しく書き写したもの。右下は暦が入っていた杉箱
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