覚醒剤の密売拠点は、警察署からわずか50メートルの距離にあった。大阪・西成区の簡易宿泊所(簡宿)で覚醒剤を売ったとして、大阪府警が8月までに無職の男2人を摘発した。日雇い労働者が集う西成の「あいりん地区」ではかつて、路上での違法薬物の密売が横行していたことから、府警が徹底的な浄化作戦を展開。取引は鎮静化したとみられていたが、訪日外国人客が利用することで注目を集めるようになってきた簡宿で、密売が続けられていたことが明らかになった。地元住民は「いつまでもイメージが改善しない。普通に暮らしたい人もいるのに」と憤慨する。

 ■一目で分かる「おかしなヤツ」

 「あの簡宿にシャブ(覚醒剤)の売人や客が集まってるんちゃうか」。あいりん地区の住民らの間では数カ月前から、ある簡宿が話題に上っていた。

 この町に住んで約20年という男性(65)は、「服装にしても、自転車の乗り方一つにしても、おかしなヤツは見ただけで分かるんや」と断言する。

 さまざまな事情を抱えた人が、日々の職を求めて集まる土地柄だ。互いのことは詮索しないのが暗黙のルールだが、実は小さな変化や違和感にも敏感という。

 府警は4月、別の覚せい剤取締法違反事件で逮捕した容疑者の供述などから「あいりん地区の一角に、不審な動きをするやくざ風の男が立っている」との情報をキャッチした。

 この男は毎日午後、路上で客と思われる人物に声をかけていたが、短い言葉を交わすとすぐに距離を置き、男は携帯でどこかに電話をかけていた。その間に客は地元で噂になっていた「あの簡宿」に入り、数分で出て行くという奇妙な動きがみられたのだった。

 ■暴力団の存在見え隠れ

 府警は内偵を進め、6〜8月、簡宿を拠点に覚醒剤を売ったとして、いずれも住居不定、無職の43歳と46歳の男2人を逮捕。簡宿の一室から約25グラムの覚醒剤(末端価格約150万円)や注射器を押収した。

 府警の取り調べに対し、「やくざ風」との目撃証言があった無職男(43)は共犯の男(46)から「客1人につき、750円をもらっていた」と供述した。しかし覚醒剤の入手ルートについては2人ともあいまいな説明に終始。背後に暴力団の存在が見え隠れするものの、全容解明には至っていない。

 府警薬物対策課によると、あいりん地区ではこれまで路上での密売や、指定場所に宅配するデリバリー方式が主流だった。今回のように路上でキャッチした客を簡宿に案内し、室内で密売するのは新たな手口という。

 この簡宿は西成署からわずか50メートルに所在。捜査関係者は「西成では密売人の取り締まりを強化しており、目立ちにくい簡宿を拠点にしたようだが、それにしても署のすぐ近くでやるとは…」と話した。

 ■悪名全国に…

 大阪の観光名所となっている超高層ビル「あべのハルカス」から約2キロのあいりん地区は、国内有数の覚醒剤の路上販売地域として知られていた。

 地元住民らによると、同地区では約20年前まで、路上に薬物を並べて売買する光景すら珍しくなかったという。覚醒剤使用後の注射器が通学路などに平然と捨てられていたこともあったとされる。

 「大阪府簡易宿泊所生活衛生同業組合50年誌」によると、西成の日雇い労働者は1960年代初頭に約50万人だったが、高度経済成長とバブル経済の到来により、昭和末期には約190万人まで増加した。

 労働者が寝泊まりする簡宿は最盛期の平成元年ごろは約210軒。その後、不況で日雇い労働者が約32万人まで減少した21年には簡宿も約90軒まで減った。

 薬物の密売も街の盛衰と同様で、バブル崩壊後の不況や警察の取り締まり強化で下火となった。

 ■イメージ悪化に住民怒り

 それでも連綿と続いてきた密売を変えたのが26年から始まった環境浄化作戦だ。ある捜査関係者は「路上での密売人は減っている」とその成果を強調した。

 この作戦で、府警は特別捜査態勢を敷き、内偵による証拠収集と容疑者の早期確保を推進。密売が日常的に行われている地域に多数の防犯カメラを設置するなど、重点的な取り締まりを行った。

以下全文はソース先で

9/12(水) 11:24
産経新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180912-00000507-san-soci