メスだけで仲間を増やすシロアリが四国と九州で見つかったと、京都大学のグループが3日発表した。シロアリ社会の常識を覆す、オスがいないアマゾネスのようなシロアリだ。

一般的にシロアリといえば、家を食い荒らす害虫として知られる。京大農学研究科の松浦健二教授と矢代敏久特定研究員らのグループは、人家ではなく、もっぱら西日本や小笠原諸島の森林に住む日本固有種の「ナカジマシロアリ」に着目。

本州から四国、九州、沖縄・奄美、小笠原諸島と、すべての生息地で採集調査を実施し、巣を構成するシロアリの性別を調べた結果、高知と徳島、大分、宮崎、鹿児島の個体群には、メスしかいないことが判明。一方でそのほかの地域では、オスとメスの比率はだいたい1:1とバランスが取れていた。

オスがいる群れの女王シロアリの体には、オスから受け取った精子を受精までたくわえておく「受精嚢(のう)」という袋状の生殖器に精子を保有していたが、四国と九州の女王は、受精嚢に精子がなかったという。

さらに、四国と九州で見つかったメスだけの群れでは、その他の地域と比べて単為生殖卵の孵化率が約84%と抜きん出て高いことも確認された。そこで、両者の違いを探るために、DNA解析で、進化の過程をさかのぼったところ、オスがいなくなったのは、たった一度だけで、それが現在まで続いているということも判明。

これまでの研究で、アリの社会は女王とメスの働きアリで構成されており、オスは交尾すると死んでしまう反面、シロアリの場合は、王と女王のペアのほか、オスとメスの働きアリや兵隊アリがいると考えられていた。

今回の発見を受けて、研究グループは「両性の社会からオスがいなくなっても社会が存続できるという事実は、昆虫社会を研究する者にとって衝撃的だった」として、オスは絶対に必要ではなく、条件が揃えば喪失する可能性があることが示されたと話している。

この研究成果は、英科学誌『BMCバイオロジー』に掲載された。

上:西日本や小笠原諸島の森林で、木の中に巣を作るという「ナカジマシロアリ」下:調べたシロアリの巣のなかで、赤丸がついた四国と九州にはメスしかいなかった
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ナカジマシロアリの単為生殖の群れと有性生殖の群れの比較。左の単為生殖個体群の巣にはメスしかおらず、受精嚢には精子が空っぽだった。右の有性生殖の群れには王と女王がペアで、受精嚢には精子が蓄えられていた
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DNA解析で進化の過程をたどったところ、オスの喪失はたった1度だけだと判明。それは果たしていつなのか?
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2018年10月03日 17時02分
ハザードラボ
https://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/2/6/26752.html