各国のP-3が日本に大集結
 防衛省は2018年9月、沖縄県の嘉手納基地にオーストラリア、ニュージーランド、カナダがそれぞれ対潜哨戒機を一時的に派遣してくることを発表しました。派遣されてくるのは、オーストラリア空軍からAP-3C、ニュージーランド空軍からP-3K2、カナダ空軍からCP-140です。

一見、それぞれ違う機種の対潜哨戒機を派遣してくるように思えますが、実はこれらの機体は全てアメリカのロッキード(当時。現ロッキード・マーチン)が開発した対潜哨戒機P-3「オライオン」をベースとする機体です。P-3は、1960年代にアメリカ海軍での運用が開始されて以来、全世界で採用されているまさにベストセラー対潜哨戒機で、日本でも海上自衛隊がP-3Cという名称で運用しています。つまり、今回沖縄の嘉手納基地には各国のP-3、言い換えればP-3一家の親戚同士が一堂に会するということになります。

 しかし、ひと口に日本へ航空機を派遣するといっても、日本とオーストラリア、ニュージーランド、カナダとの距離はそれぞれ非常に離れています。たとえば、この3か国のなかで日本との距離が最も離れているニュージーランドからだと、日本までおよそ9000kmにもなります。では、そこまでの道のりを飛び越えてまで今回こうして各国の対潜哨戒機が日本に集結する理由とは、いったいなんでしょうか。それは、北朝鮮が行っている洋上での違法な物資のやり取りである「瀬取り」の監視や取り締まりを行うためです。

 現在国際社会は、北朝鮮による核開発や弾道ミサイルの開発をやめさせるために、国際連合(国連)による制裁措置を通じて経済的な圧力をかけています。いくら北朝鮮が核兵器や弾道ミサイルを開発しようとしても、資材や資金がなければこれを継続することができず、また制裁によって北朝鮮の経済情況を悪化させることにより、こうした地域の平和や安定を損なう核兵器や弾道ミサイルの開発をやめさせよう。というのがこの制裁措置の主旨です。

 しかし、北朝鮮はこの制裁措置に抜け穴を設けるべく、様々な手段を講じています。そのひとつが、他国の船と洋上で物資をこっそりやり取りすることで、制裁措置によって輸入することができない石油などを手に入れる「瀬取り」とよばれる行為なのです。

瀬取り監視に対潜哨戒機が必要なワケ

 こうした瀬取りなどの抜け穴をふさがなければ、いくら国際社会が制裁措置を行っても、その意義が薄れてしまうことになり、結果として北朝鮮の核兵器開発などをやめさせることが難しくなってしまいます。そのため、各国が協力して瀬取りの監視を行うべく、日本に対潜哨戒機を派遣してくるというわけです。

ちなみに、今回航空機を派遣する3か国のうち、オーストラリアとカナダは2018年の4月にも今回と同様の目的で対潜哨戒機(オーストラリアがP-8、カナダがCP-140)を日本に派遣した実績があります。

 では、今回各国が瀬取り監視を行うツールとして対潜哨戒機を選んだのは、いったいどのような理由からなのでしょうか。

 瀬取りの取り締まりといっても、広大な日本海や東シナ海において「いつ、どこで」行われるか分からない瀬取りを監視するというのは、非常に難しい作業です。たとえば、船舶による監視では目視で確認することができる範囲に限界があり、ヘリコプターでは上空から監視できることで船舶よりもカバー範囲を広げられる反面、燃費の悪さに起因する航続距離の制限がかかってしまい、進出できる距離や監視を行える時間に限界があります。そこで、対潜哨戒機の出番です。
https://trafficnews.jp/post/81614
ニュージーランド空軍のP-3K2
https://contents.trafficnews.jp/post_image/000/030/432/large_180928_p3c_01.jpg
https://contents.trafficnews.jp/post_image/000/030/435/large_180928_p3c_04.jpg
カナダ空軍のCP-140
https://contents.trafficnews.jp/post_image/000/030/433/large_180928_p3c_02.jpg
https://contents.trafficnews.jp/post_image/000/030/434/large_180928_p3c_03.jpg
海上自衛隊のP-3C哨戒機は、もっとも多いときで100機近くが配備されていた
https://contents.trafficnews.jp/post_image/000/030/436/large_180928_p3c_05.jpg