東京電力福島第一原発事故後に発信されたツイッターの発信内容について、事故約1か月後には「事実」を伝える発信が弱まり、「感情的」な発言が勢いを増していったことが、相馬中央病院(福島県相馬市)などの医師らの研究で分かった。分析結果は、災害時の情報伝達のあり方を考える手がかりになると期待される。研究成果をまとめた論文が、米科学誌「プロスワン」(電子版)に掲載された。

 同病院の坪倉正治特任副院長らは、原発事故の前後となる2011年3月2日から同9月15日の間、世界中で交わされたツイッターの発信約2400万件を分析した。ツイッターには「ツイート(つぶやき)」と「リツイート(他人のつぶやきの転載)」という主に二つの発信方法がある。今回はリツイートに着目し、「被曝ひばく」「セシウム」などのキーワードを含むデータを分析対象とした。

 その結果、リツイート数全体の約3割は、わずか100の人やグループの発信を元になされていた。このうち17年6月時点でツイートが取得でき、発信内容の分類が可能なのは94人だった。94人は発信内容に応じて、「事実や科学的内容が多い人やグループ」(14人)、「感情的表現や政府や東電への批判が多い人やグループ」(67人)、「メディア・ジャーナリスト」(13人)に3分類できた。

 事故直後は「事実」と「感情」のリツイートはおおむね同じ数だった。ところが1か月後には「感情」が過半数となり、その後約半年間大きな変化はなかった。

 リツイート数が上位20番以内に入った発信者数は11年3月に「事実」6人、「感情」8人だったが、同年9月には4人、11人と大きな差となった。約半年を通してのリツイート数の割合は、「事実」26%、「感情」61%、「メディア」13%だった。

 その原因を分析したところ、「感情」のグループ間では相互のリツイートが多い一方、「事実」の方はお互いにリツイートしあうことが少なかった。坪倉さんは「『感情』グループは同じグループ内でリツイートを繰り返す。別の意見が入りにくく、考えが硬直化しやすいので注意が必要だ。一方、『事実』グループは相互の協力ができなかった」と話している。

 「事実や科学的内容が多い」の一人とされた早野龍五・東大名誉教授(原子核物理)は、「リツイートは感情的、自動的にクリックすることが多いのだろう。他方、『事実』グループは他人の発言をリツイートせず、元の情報を探して自分で発言する傾向がある」と分析。その上で「SNSの世界では、論理が感情に勝つことは難しい」として、「様々なメディアを活用することが大事だ」と呼びかけている。

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読売新聞
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