性暴力根絶条例、21日成立へ 住所届出義務化、疑問の声も 福岡県
毎日新聞 2019年2月20日 08時00分(最終更新 2月20日 08時00分)
https://mainichi.jp/articles/20190219/k00/00m/040/216000c

 18歳未満への性犯罪で服役した出所者が県内に住む場合、氏名や住所、連絡先などを県に届け出るよう義務づける「福岡県性暴力根絶条例(仮称)」案が21日の県議会本会議で可決・成立する見通しだ。大阪府に次ぎ全国2例目となるが、効果は不透明で疑問の声も上がっている。

 県議らによる検討会議が策定し、1月22日に公表された条例案は、出所者に再犯防止プログラムや治療の支援をする一方、正当な理由なく届け出なければ5万円以下の過料を科すとした。

 これに対し、県弁護士会(上田英友会長)は2月7日付の反対声明で「前科情報はプライバシー性が高く、公開されない権利が憲法で保障されている」と批判。届け出の義務づけは不必要で、かえって更生を妨げると主張した。

 こうした声を受けて県議会が15日に公表した修正案は「性被害を傍観せず積極的に行動する」ことを「県民の責務」とした条文を削除したが、住所などの届け出義務は残した。主要会派間で合意しており、21日の本会議で可決する見通しだ。

 2012年に同様の条例を施行した大阪府の場合、昨年3月までに届け出た121人のうち支援を受けた人は40%にとどまった。届け出率の推計は63%で、届け出なかった人に過料を科したケースはない。効果については、再犯に至ったかどうかの情報が得られないため具体的データは得られていない。

 運用状況の調査に協力した大阪大の藤岡淳子教授(司法犯罪心理学)は「思ったより届け出が多かった」とした上で「府単独での取り組みには限界があり、全国に広がることが重要だ」と強調する。

 これに対し、甲南大法科大学院の渡辺修教授(刑事訴訟法)は「子供への性犯罪者は再犯するという社会不安をあおり、排除することにもつながりかねない。プログラムの内容を含め、もっと慎重に議論をすべきだ」と話す。

 福岡県議会事務局は「性犯罪の認知件数が全国の中でも多く、再犯防止の支援を行き届かせるために義務づけが必要だ」と条例案を説明している。【平川昌範】


福岡県性暴力根絶条例案
・18歳未満への性犯罪の受刑者が出所後5年以内に福岡県内に住む場合、氏名、住所、生年月日、連絡先、罪名などを県に届けなければならない

・県は届け出を受けた場合、性犯罪の再犯防止のため指導プログラムや治療を受けることを支援する

・正当な理由なく届け出をしなかったり、虚偽の届け出をしたりした場合は5万円以下の過料に処する