3/2(土) 6:53配信
朝日新聞デジタル

 どんな性の人も、自信を持って生きられるように――。そんな願いが込められた性的少数者のための「LGBT成人式」が、全国に広がっている。7年前に東京で始まり、これまでに17都道府県で開催。富士市でも1月に開かれた。参加者が自認する性別はもちろん年齢も問わない開かれた形にしたことが、広がりの背景にあるという。

 1月末、富士市であったLGBT成人式には約20人が集まった。同市では2016年以来毎年開かれており、今年は市長らも出席。立食形式の会場は出席者同士の会話も弾み、和やかな雰囲気に包まれた。

 スーツにちょうネクタイという姿で参加した奥居勇さん(42)は、女性の体で生まれ、男性として生きる「FTM(Female To Male)」。子どもの頃から「女の子」として扱われることに違和感を感じたといい、国内での治療を経て2010年に海外で性別適合手術を受けた。

 戸籍も男性に変え、17年には結婚。今回、妻の静佳さん(42)と2人で参加した。奥居さんは「互いを認め合い、自分に自信を持てる良い機会。1人で悩む人も、同じ境遇の人と会うことで力をもらえるのでは」と話す。

 LGBT成人式は性的少数者の当事者や支援者らでつくるNPO法人「ReBit」(東京)が12年に東京都世田谷区で初めて開き、各地で開かれるようになった。「成人」の定義は「成りたい人になる」こと。20歳でなくても参加でき、開催時期も「成人の日」にこだわらない。服装も自由で普段着や仕事着で来る人もいる。

 一方で細やかな配慮もしている。人目につくところで「自分らしい」格好をしづらい人のため、更衣室を用意する会場もある。カミングアウトしていない人にも安心してもらえるよう、会場の場所は参加者にしか伝えない。こうした参加しやすい雰囲気作りが功を奏し、開催地は全国に広がった。今年は富士市のほか、埼玉県川越市、名古屋市、札幌市の4カ所ですでに開かれた。

 参加者からスタッフになった人も。沼津市の岸本淳子さん(49)は男性として生まれたが、心は女性。17年に初めて参加して以降、富士市の式の運営に加わってきた。数年前にカミングアウトするまで男性として生きてきた岸本さんは「成りたい人になる」というコンセプトが「自身の軸になった」と言い、「地方都市では、まだ社会的少数者が集える場は少ない。貴重な場を提供してくれた式に協力したいと思った」と振り返る。

 初開催から8年目を迎えた今年、ReBitは東京でのLGBT成人式の主催をやめた。社会の変化で、都市部では当事者が声を上げやすくなってきたことがあるという。今後はLGBT関連の課題に取り組む若手向けの勉強会などに力を入れていくという。

 地方で開かれるLGBT成人式へのスタッフ派遣などのサポートは、今後も続ける。ReBit教育事業部マネジャーの小川奈津己さん(29)は「あらゆる多様性が身近にある社会は、性的少数者にとっても、そうでない人にとっても生きやすい社会だと思う。社会やニーズの変化にも柔軟に合わせ、これからも活動していけたら」と話す。(松田果穂)

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