震災8年、厳しい原発再稼働 輸出は頓挫、建て替えにも踏み込めず (2ページ全文)

震災から8年を迎えた11日の福島第1原子力発電所。原発を取り巻く状況はなお厳しい

 東京電力福島第1原子力発電所事故を教訓に策定された新規制基準のもと、再稼働した国内の原発は5原発9基にとどまる。昨年7月に改定された国のエネルギー基本計画では、原発を引き続き重要な電源として使う方針を示しつつも、焦点の建て替えや新増設には踏み込まなかった。海外への輸出案件も相次ぎ頓挫。原発を取り巻く状況は厳しさを増すばかりで、「国が原発の建て替えに言及しないことが最大の問題点」との指摘も上がっている。

 今年はゼロの公算

 「原発が定着して、しっかりと経済・社会を支えるところまで至っていないと思う」。東日本大震災と福島原発事故から8年が近づいていた2月の記者会見で、電気事業連合会の勝野哲会長(中部電力社長)はこう述べた。

 再稼働した5原発9基は福井県以西にあり、原子炉の種類は全て「加圧水型(PWR)」と呼ばれるものだ。事故を起こした福島第1原発と同じ「沸騰水型(BWR)」や東日本での再稼働は現時点でない。昨年4基が再稼働したの対し、今年は新たな再稼働はゼロの公算が大きい。

 電力各社が再稼働を目指す上で、原子力規制委員会の審査に合格しても、地元同意の取り付けは一筋縄ではいかない。福島原発事故で世間の原発に対する見方が変わったためだ。安全対策工事の長期化や費用拡大の可能性もぬぐえない。

国は2030年度の電源構成で原発比率を20〜22%(17年度は3%)にすることを目指す。達成には30基程度が動く必要があるが、再稼働のペースの遅さに加え、電力各社による廃炉の動きもある。

 廃炉が決定済み、または検討中の原発は24基(福島原発事故前の決定分も含む)と、再稼働した9基を大きく上回る。原発比率20〜22%の達成に懐疑的な見方は少なくなく、経済同友会の小林喜光代表幹事は2月の会見で「あまり現実的でない」とした。

 国のエネルギー基本計画では2050年に向けた対応でも、原発は「脱炭素化の選択肢」と明記。他方、原発への世論に配慮したのか、建て替えや新増設の必要性には触れていない。

 「(現行の政策メニューで)本当に十分なのかと問いたい。国はもっと踏み込んで政策を進めていくべきだ」。今月5日、自民党の総合エネルギー戦略調査会の会合で原子力政策について発言したある議員はもどかしさをあらわにした。

 国が成長戦略の目玉に掲げてきた原発輸出政策も、日立製作所が1月に英国での原発新設計画の凍結を決めるなど、厳しい局面を迎えている。日本がこれまで培ってきた原発分野の人材や技術、産業基盤の維持が危ぶまれている。

 閉塞状況打開できず

 東京理科大大学院の橘川武郎教授は「最大の問題点は、国が原発の建て替えに言及しないことだ。原発を使い続けるのなら、危険性の最小化が大前提になる。そのために必要な建て替えに触れないところに、国の逃げ腰や先送り姿勢が端的に表れている」と指摘。原発事業を営む電力会社についても「国の支援をまずあてにするという発想では、原発を取り巻く閉塞(へいそく)状況は打開できない」と話した。(森田晶宏)

https://www.sankeibiz.jp/macro/news/190312/mca1903120500002-n1.htm
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/190312/mca1903120500002-n2.htm
2019.3.12 07:15、SankeiBiz、産経新聞デジタル