素手のまま下水道の清掃をするディラワル・シンさん(中央)ら=2018年11月、ニューデリー(共同)
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 インドで、素手のままトイレや下水道の清掃に当たる労働者の死亡事故が相次いでいる。不衛生で危険な環境下での作業による死者は毎年後を絶たず、近年は増加傾向にあるという。素手で排泄(はいせつ)物を処理する労働は法律で禁止されているが、野放しになっているのが現状で、政府の対応も鈍い。背景には、カースト制度に基づく、人々の「不浄」への意識がある。

■「ほかに仕事ない」

 ニューデリー郊外の住宅地。ディラワル・シンさんが、仲間と2人でマンホールの蓋を開けると、鼻を突くような異臭が放たれた。中には排泄物などが混じった汚水が流れる。「ここが仕事場だ」。シンさんは顔をしかめた。

 竹の先端に布を巻き付け、下水管に入れて詰まりを取り除く。汚物をかき出すのは手作業だ。汚水に入って作業をすることもある。シンさんは「1日の稼ぎは200ルピー(約320円)ほど。病気やけがが怖いが、ほかに仕事はない」とため息をついた。

 こうした労働者はインド全体で少なくとも30万人以上いるとされ、行政機関や住民から依頼を受けて清掃作業を行う。労働者の大部分は、カースト制度の最下層で不可触民とされた「ダリット」の人たちだ。人間の排泄物も、それを処理する人も「汚いもの」として忌み嫌われ、ほかの職に就く道は実質的に閉ざされている。

 ダリットへの差別撤廃を求める団体「SKA」によると、下水管の中に充満したガスによる中毒死など、清掃中の事故で昨年は少なくとも93人が死亡した。労働者の7割が何らかの感染症にかかっており、平均寿命も一般の人たちより短いという。

 取り組みが評価され「アジアのノーベル賞」といわれるマグサイサイ賞を2016年に受賞したSKAのベズワダ・ウィルソン議長は「事故が起きれば政府は対策に乗り出す構えを見せるが、実際は何もしない。補償金も支払われず、使い捨ても同然だ」と憤る。

■ロボットで現状改善

 一方、ビジネスを通じて現状を変えていこうとする若者たちもいる。南部ケララ州で15年に設立されたジェンロボティック・イノベーションズ社は、下水道を清掃し汚物を回収できるロボットを開発。昨年2月には、同州政府が清掃現場での導入を決めた。

 同社を運営するのは、州内の大学で機械工学を学んだ20代の若者4人だ。その一人、アルン・ジョージさんは「学生時代、マンホールの中で清掃作業中の3人が死亡する事故があった。危険で過酷な労働環境をなくす機械を作れないかと、仲間と開発に乗りだした」と話す。

 ロボットは清掃作業の労働者が操作することも可能で「雇用を奪うことなく、仕事の危険性だけを取り除ける」(ジョージさん)という。インド各地のほか、国外からも導入の問い合わせが来ており、ジョージさんは「テクノロジーで、危険な作業に当たる人たちに安全と尊厳を与えたい」と話している。(ニューデリー 共同)

2019.3.21 05:50
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