日産自動車の企業統治改善について、提言がまとまった。社外の有識者と日産の社外取締役からなるガバナンス改善特別委員会が発表した。

 東京地検に逮捕・起訴されたカルロス・ゴーン前会長らの行動については、日産の社内調査の結果を追認。
報酬の過少開示、会社資金・経費の私的利用などについて法令や社内規定の違反を疑うに足りる事実、経営者としての倫理観の欠如を示す事実があると指摘した。

 不正の根本原因として、ゴーン前会長への個人崇拝が進み、大株主であるルノーのトップも兼ねたために人事・報酬などの権限が集中したことを挙げた。取締役会の監視機能も有効に働いていなかったという。

 改善策としては、指名委員会等設置会社への移行を提言。取締役の過半数を独立性のある社外取締役にし、会長職を廃止するよう求めた。業務を担う執行役と、それを監督する取締役の分離を徹底する内容であり、当然といえる要請だ。

 一方で、今回の内容で経営の立て直しに十分とは、到底いえない。特別委は「ガバナンスの改善」に目的を絞っており、事実認定や前会長ら以外の経営責任について、踏み込んだ検討や説明をしていないからだ。

 そもそも特別委は7人中3人を社外取締役が占め、日本弁護士連合会のガイドラインに基づく「第三者委員会」ではない。ゴーン前会長らからの聴取も行わなかった。様々な制約がある中での調査とはいえ、客観性には留保をつけざるをえない。

 報告書に示された不正の事実も、多くは項目の列記にとどまり、具体的な内容の説明は避けている。捜査・公判への影響を考慮したとしても、株主、消費者、従業員への情報開示の観点から疑問が残る。

 最大の問題は、現経営陣の責任の有無に言及しなかったことだ。西川広人社長兼CEOは05年に副社長に就き、ゴーン体制下で経営を担ってきた。不正があったとすれば、自ら関与していないにしても、経営者として看過した責任は免れない。

 日産は会社としても起訴されている。その他の役員も含め、取締役としての務めを十全に果たしてきたのかを不問にしたままでは、いくら組織を整えても経営の刷新は無理だ。

 自動車業界は激変期にあり、社会にどんな価値を提供していくのかが改めて問われている。経営の迷走に終止符を打ち、消費者の期待に応える企業として再生するための時間は、決して多くは残されていない。

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