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新元号「令和」は同じ漢字文化圏の中国や台湾でもリアルタイムで大きく報じられ、関心の高さをうかがわせた。

「元号はあくまで中華文明」と強弁する一方で、今も変わらず元号を継承し続ける日本の姿勢について、素直に敬意を示す報道や投稿が目立った。

また、日本以上に典拠についての追究合戦が白熱。まことしやかなフェイクニュースまで拡散されて──。

■「令」を予想的中させた中国誌
新元号について、中国メディアは概して好意的に報じている。

中国金融ポータルサイト大手「中財網」は「古代中国から日本や朝鮮半島、ヴェトナムに伝えられた元号だが、中国では1912年の清朝・宣統3年で、朝鮮半島では1910年の大韓帝国・隆熙3年で、ヴェトナムでは1945年の阮朝・保大20年でそれぞれ途絶え、西暦に一本化された」と指摘。行間に、本家たる中国で失われたことを惜しむ思いをにじませながら、日本だけが1000年以上にわたって元号を継承し続けている点を素直に讃えた。

加えて「日本の元号が素晴らしいのは、儀礼的な存在にとどまらず、市民の生活に密着している点」とも指摘。「日本の社会では公文書、各種身分証、免許証、硬貨、定期刊行物、乗車券、食品ラベルなどと元号が不可分の関係だ。中華文明発祥の元号をここまで大切にし、現代生活に密着させてきた日本人の叡智には敬服の念を禁じ得ない」とまで絶讃する。

一方で中国大手経済誌「財新」の記者は日本留学時代、日本人女性に出生年を尋ねられ、「入郷随俗(郷に入らば郷に従え)」の精神で「平成元年生まれです」と答えたところ「……えっと、それって何年?」と怪訝な顔で返されたエピソードを紹介。

「元号は確かに日本社会で必要不可欠な存在だが、人びとの意識は既に西暦ファーストだ。昭和○年、平成○年が即座に西暦で答えられる市民は少ないし、その反対も然り。公的機関でも最近は、西暦のみか、西暦・元号併記のケースが増えている」と指摘した。

ちなみに「財新」誌は2018年12月時点で、「明治」が11度目の正直で選定されるなど過去の多くの元号が“敗者復活”で決まった事実に着目。新元号は「承廷」(1652〜55年“承応”の候補)と「令徳」(1864〜65年“元治”の候補)が最有力と独自予想していた。「結果的に予想は外れたが、多くの日本人が予想しなかった『令』を的中させたことは自画自賛できるのではないか」

■“フェイク典拠”が不謹慎すぎる!
安倍内閣が「国書からの引用」にこだわった理由について、「日本の右翼陣営の批判をかわす策のひとつだったのだろう」と分析。同時に「現在の天皇は皇位継承以来、右翼的な考えや軍国主義に汚染されることなく徹底して平和を希求し、戦争反対と靖国神社への不参拝を貫いてきた」と評価。平和の意味が籠められた「令和」は、「徳仁天皇が明仁天皇の精神を継承する宣言とも受け取れる」として歓迎の意を示している。もっとも、元号選定に天皇や皇族が関与しない事実には触れていない。

ちなみに中国では、新元号発表の直後から、「典拠は『清史稿(しんしこう)』の巻319列伝一百六に収められている和珅伝だ」とのフェイクニュースが出回り、筆者もあやうく信じるところだった。

ネット投稿者は『清史稿』で和珅について記述したくだり「乃賜令和珅自尽(和珅は皇帝から死を賜った)」の一文があり「不吉すぎる!」と投稿。日本を嘲笑するデマが拡散し、大手メディアも一時、こぞって追随した。

だが実際の『清史稿』には「不忍令肆市賜自尽(市中で晒し者にするには忍びず、自害を賜った)」と書かれており、「令和」の表現はない。SNSには「騙されるな」「エイプリルフールだからって悪い冗談にもホドがある」と猛批判が飛び交ったが、「乃賜令和珅自尽」としても語調や意味は通じることから「歴史専攻の俺も信じてしまった」「実に教養深いフェイクだ」と感心する投稿も少なくなかった。

■「令和」と書いたら「こんにちは」
「令和」の読みをめぐっては、チベット語で「希望」を意味する「རེ་བ། (rewa)」が「レイワ」に近いと伝えられたが、台湾語の音でもポジティブな意味になることが話題になっている。

「令和」は、標準中国語(普通話)や台湾の共通語である国語(台湾華語)で「リンホゥ(linghe)」と発音する。この「リンホゥ」は台湾語だと「みなさんこんにちは!」を意味する「你們好(リンホゥ)」と非常に近い音になるため「レイワの響きには何も感じないが、リンホゥと読んだ瞬間に強烈な愛着が湧く」と感じる市民が多いようだ。