国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産登録に向け、松本城など国宝3城が、すでに登録されている姫路城を抱き込む形での追加登録を目指している。世界遺産への道が厳しくなる中での“奇策”だが、一方で、同じく国宝の彦根城はこの枠組みから抜け、単独で挑む。静かなる闘いが続く中、孤高の存在だった姫路の本音は複雑なようで…。

 世界遺産登録は、(1)国内の暫定リスト入り(2)国内の推薦候補に決定(3)国際記念物遺跡会議(イコモス)が審査、勧告(4)世界遺産委員会で決定−という手順を踏む。どの過程も狭き門で、このほど登録される見通しとなった大阪府の「百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群」は2010年にリスト入りしたが、13、15、16年の3回、関係自治体が作った推薦書案が見送られた。

 道のりの険しさから、長野県松本市は関連する資産を一括して登録する「シリアル・ノミネーション」を模索。国の助言を受けて11年度、犬山城がある愛知県犬山市、彦根城がある滋賀県彦根市と共に、「姫路城をはじめとする国宝城郭群」としての登録を目指し始めた。お墨付きを得ている姫路をうまく活用する作戦だ。

 同様の「拡張遺産」は国内では例がなく、文化庁が調整しつつ手続きを進める。16年度には松江城がある松江市も加わり、「近世城郭群世界遺産登録推進会議準備会」としてリスト入りに向けた動きを進めている。案がある程度整理できた段階で、文化庁が姫路側に働き掛けるという。

 松本市の担当者は「大切な遺産を次世代に確実に引き継ぐために、世界遺産になることは欠かせない」と強調する。

 しかし、秋波を送られる姫路は冷ややかだ。拡張遺産として登録される場合、姫路城としての登録を“上書き”される形になる。専門家は「単独の方が存在感は明確だ。『姫路城とその仲間たち』では、市民は面白くないのではないか」と指摘。姫路城の関係者も「メリットがない」と口をそろえ、「これまで認められてきた価値も薄まる。海外の評価に影響しそうで、市民から反対の声が出るかも」と心配する。

 一方、姫路城と同じ1992年からリスト入りしてきた彦根城は、2015年度に目標を単独登録に切り替え、この連携を脱退した。今春、推薦書案を国に出し、結果を待つ。「リスト入りから20年以上たって、もうだめだと言う人もいるが、国に前進は評価されている。課題は姫路城との違いをどう出すか。克服しながら実現を果たしたい」と彦根市の担当者。悲願の世界遺産登録に向け、歩みは続く。

【世界遺産】 人類共通の資産として保護すべき「顕著な普遍的価値」を持つ遺跡や景観、自然などを、世界遺産条約に基づき国連教育科学文化機関(ユネスコ)が登録する。自然、文化、複合の3種類がある。日本の世界遺産は百舌鳥(もず)・古市(ふるいち)古墳群が登録されれば文化19、自然4の計23件になる。姫路城は1993年、国内で初登録された。最近では総数が増えているため、離れていても似た特徴があれば1件にまとめる「シリアル・ノミネーション」という手法で登録を目指す動きが目立つ。


https://i.kobe-np.co.jp/news/sougou/201905/img/d_12366357.jpg
いずれも国宝の(右手前から)松江城、姫路城、彦根城、松本城、犬山城の模型=姫路市本町、兵庫県立歴史博物館

https://i.kobe-np.co.jp/news/sougou/201905/img/d_12366358.jpg
国宝5城と世界遺産登録を巡る立場


神戸新聞NEXT 2019/5/26 07:00
https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201905/0012366356.shtml