奈良県内の大和川河川敷に何やら見慣れぬ動物が生息しているらしい。そんな噂を聞きつけ、県西部の王寺町に向かった。目の当たりにしたのはせっせと草をはむカピバラに似た生き物。
正体は南米原産の大型ネズミ、ヌートリアだ。各地で深刻な農作物被害が報告されているほか、ため池や水路も決壊させる厄介者で、生態系に影響を及ぼす恐れのある環境省の特定外来生物に指定されている。
奈良県内では6月以降、目撃情報が相次いでおり、自治体などが捕獲を続けながら注意を呼びかけている。(藤木祥平)

南米原産の大型ネズミ

 「ヌートリアが攻撃してくる可能性は低いが、見つけても近寄らず、絶対に餌をあげないでほしい」。王寺町の担当者はこう話す。

 目撃情報が急増しているのは大和川の河川敷。ヌートリアは数匹おり、他の地域から移ってきて定着したともみられる。河川敷には遊具もあり、子供やジョギングの市民らが訪れるため、大和川を管理する国土交通省大和川河川事務所は「餌(えさ)を与えないでください」という看板を設置した。

 また王寺町は目撃情報のあった場所近くに捕獲器を2器設置し、これまでに4匹を捕獲した。しかし、ほかにも目撃情報があり、増殖している可能性もあるとして当面は設置を続ける方針だ。

 ヌートリアは体長50〜70センチ。長い尻尾とオレンジ色の前歯が特徴で、水辺付近に生息している。明治後半に輸入され、第二次大戦中には防寒性に優れる毛皮の採取を目的に飼育ブームが起きた。戦後の食糧難の時代には食肉用として重宝されたが、その後放逐され、野生化したという。

 ヌートリアの生態に詳しい岡山理科大の小林秀司教授(56)は「かつては40近い都道府県で飼育していた記録が残っている。米国による食料供給や豊作の影響で、食料としては必要とされなくなった」と説明する。

 繁殖力が極めて高く、最新の研究では年2〜3回の出産で平均6・5匹の子を産むとされる。西日本を中心に分布し、大阪府や京都府、兵庫県でも定着。県内のほぼ全域で定着している岡山県では、かつて一斉駆除に着手したこともあったが、そのかいもなく、生息数はわずか半年で元に戻ったという。

体重の20%の量ペロリ

 農林水産省が公表している「野生鳥獣による農作物被害状況」(平成29年度)によると、ヌートリアについては全国で年間約5800万円の被害報告がある。

 水辺の草を引っこ抜き、根の部分を食べるヌートリアはかなりの大食漢で、1日に体重の20%に相当する量を食べることも。頭も良く、侵入防止柵の突破できそうな場所を探し、集中的に攻撃する習性も確認されている。

 奈良県が28年度、県内約1800の農業集落を対象に有害鳥獣の被害状況などに関するアンケートを実施したところ、ヌートリアが「いる」と回答したのは33集落で、「ほとんど被害対策は実施されていないのが現状」だった。

 同じく特定外来生物に指定され、561集落で確認されたアライグマと比較するとまだ少ないが、小林教授は「目撃情報が増えているのであれば、県全域に増殖する可能性も十分にある。被害が拡大する前に捕獲し、分布域を押し戻す必要がある」と話す。

 被害は農作物だけにとどまらない。ヌートリアは水辺にトンネルを掘って巣を作るため、ため池や河川の堤防、田んぼの水路を決壊させる恐れも指摘されている。
岡山市では昨夏の西日本豪雨が引き金となり、ヌートリアの巣穴を原因とするため池の部分崩落が起きたという。
小林教授は「管理が行き届かなくなった田んぼやため池は、ヌートリアにとって格好の隠れ場所になるので注意してほしい」と話している。

https://www.sankei.com/west/news/190725/wst1907250001-n1.html