横浜国立大学・小林憲正教授
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 横浜国立大学の小林憲正教授は、生命の材料がどのようにできたかを実験室で解き明かす研究をしています。地球以外に生命が発見されれば、その生命との比較で地球の生命がどのようにできたのかも理解が進むでしょう。「宇宙人はいるか」という問いは、「我々はどうやってできたのか」という問いにもつながっているのです。

■太陽系にも生命がいる可能性は十分

――生命が誕生するためにはどんな条件が必要なのでしょうか。

小林 今考えられているのは、(1)液体の水(2)有機物(3)生きていくためのエネルギー源、この三つです。有機物というのは生物の体を作る材料、具体的にはたんぱく質のもとになるアミノ酸などですね。エネルギー源は、太陽の光や火山活動の熱などです。これらの条件を満たす場所は、太陽系の中だけでも10か所くらいあります。その中には宇宙人と呼べるような知的生命はいないでしょうが、生命がいる可能性は十分あります。

――太陽系の中のどんな場所にいると考えられているのでしょうか。

小林 有力なのは、火星の地下です。また、エウロパやエンケラダスなどの木星・土星の衛星は、地表だけではなく地下に液体の海が広がっていると考えられている星があります。また、金星の地表は気温が高く、生物がいるのは考えにくいですが、金星の上空には気圧がほぼ1気圧で温度も1〜100度程度のところがあります。ここには水と硫酸からなるエアロゾルが存在し、上空に浮いている生物がいるかもしれないという説もあります。

 ただ、これらに高等生物はいないと考えられています。火星は40億年ほど前には地球と同じように海があったと言われています。しかし、どこかの時点で干上がってしまい、今のような岩だらけの地表になってしまいました。これだけ大きく環境が変わってしまうと、もしも40億年前に生命が生まれていたとしても、地球の生命と同じように高等生物に進化するのは難しいでしょう。

■RNAでない分子で自己複製する生物がいてもいい

――小林先生は、宇宙人はいると思いますか。

小林 生命ができるところまでいく星はいっぱいあるのではないでしょうか。1995年以降、太陽系外にたくさん惑星が見つかっています。銀河系内には数千億個の恒星がありますが、そのほとんどが惑星を持っていると考えられています。先ほど挙げた条件を満たす、生物がいる可能性のある領域(ハビタブルゾーン)にある惑星も珍しくないでしょう。あとは液体の水からなる海が、ある程度の期間、長続きする環境にあれば、生命が生まれ、長く存在することは十分考えられます。

 ただ、一般的には生命が高等生物にまで進化するのは難しい部分があります。たんぱく質とRNAが結びついて生命が誕生し、細胞核ができて、多細胞になり、知能を獲得して……という進化の過程は、いずれも相当低い確率でしか起きないと考えられます。しかし、地球と同じようなことが地球でしか起きないと考えるのは、「地球ファースト」な考え方に過ぎません。地球型の知的生命はあくまでひとつの例であり、違った条件では別の高等生物ができる可能性もあるのではないでしょうか。

 たとえば、地球の生命は自分を複製するためにRNA、DNAを使っていますが、RNAではない分子を使っている生物がいてもいいと考えています。

――具体的にはどういうことでしょうか。

小林 生命の材料になるたんぱく質は、アミノ酸がつながったものです。アミノ酸は宇宙でもどこでも作ることができますが、RNAやDNAといった核酸の場合、そうはいきません。これをどうやって作ったのか、が問題になっています。

 私は「がらくた仮説」を提唱しています。たんぱく質やRNAといったものがきれいにできたのではなく、それらを構成する分子ががらくたのように雑多に集まり、まずは長い時間、その状態が維持されるような物質になったのではないでしょうか。最初はがらくたのようにいろんなものが含まれ、何千年も維持している間に、その中で有用なものが選ばれるという過程があったと考えています。それが地球生命の場合、たまたまRNAだったのではないでしょうか。

 逆に言えば、他の星ではRNAでないものが自己複製を担う方がその星の条件下では効率良く稼働できるのであれば、それが選ばれている可能性もあると思います。(続きはソース)

読売新聞 2019/09/02 17:25
https://www.yomiuri.co.jp/kodomo/fromeditor/notice/20190902-OYT8T50077/