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 家畜伝染病「豚(とん)コレラ」が国内で二十六年ぶりに岐阜市の民間養豚場で確認され、まもなく一年。
ウイルスの運び役とされる野生イノシシの感染は愛知、三重、長野、福井など周辺六県に急拡大し計千頭を超えた。
専門家は、感染は岐阜市内を基点に同心円を描くように、外側に直線距離で一日最速約四百二十メートルのペースで広がったと分析。
年明けには関東まで到達する恐れがあると推測する。
同市の養豚場で最初に豚コレラが確認されたのは昨年九月九日。
野生イノシシの感染確認は五日後、約七キロ離れた市内の用水路で死んでいた一頭が最初だ。

 農林水産省の疫学調査チームは、問題のウイルスが、遺伝子の特徴などから中国やその周辺国から侵入したと推定。
感染した豚肉や肉製品が国内に持ち込まれて廃棄され、野生イノシシが口にして感染が広がった可能性が高いとみている。
昨年十二月には岐阜県以外で初めて、愛知県犬山市でイノシシの感染を確認。その後、他の周辺県でも相次いだ。
岐阜県内は、累計で八百七十頭を超えた。

「岐阜県豚コレラ有識者会議」委員の獣医師、伊藤貢(みつぎ)さん=愛知県田原市=は、各県の感染イノシシの位置情報から拡散状況を分析。
豚の感染が最初に確認された岐阜市の養豚場周辺を基点に、直線距離で一日当たり何メートル拡散しているか調べている。
七月に遠方の長野県塩尻市や富山市で見つかった個体の基点からの距離を分析し、一日最速四百二十メートル進んだとみている。
過去にドイツで発生した感染例を文献で調べたところ、一日平均六十八メートルだったという。
国内の拡散速度は、ドイツを大幅に上回っているとの見方を示す。

伊藤さんは統計的な分析から、今後は最速で一日三百三十メートルずつ拡散すると予測。
年明けには、豚の飼育頭数が全国有数の群馬県など、関東地方に到達する勢いとみている。
岐阜県で豚が感染した大半の養豚場では、発生前に周囲六キロ以内で感染イノシシが見つかっていた。

伊藤さんは
「イノシシの感染対策は県単位では限界があり、広域的な視点でイノシシの個体を減らすなど抜本見直しが必要だ。
飼育豚にも地域を限定しワクチンを接種すべき時期に来ている」と国の決断を促す。

◆人間が媒介の可能性も
 <宮崎大の末吉益雄教授(家畜衛生学)の話>
感染したイノシシが山地に入った時点で、人間による制御は難しくなった。
富山や石川で感染が確認されたのは、岐阜でウイルスが付着した獣道に入るなどした人間が媒介した可能性もある。
さらに遠方の地域で急に確認されることも考えられ、全国で警戒が必要だ。

◆当初は楽観 封じ込め失敗
 イノシシの感染を巡り、国や岐阜県の対策は後手に回り封じ込めは失敗した。
岐阜市内で最初の感染イノシシが発見されて約二週間が経過した当時、感染が確認されたのは十頭足らず。
地域も限られていたことから、農水省の疫学調査チームの幹部は取材に
「感染源への対策を取り、これ以上広がらなければ収束できる」と楽観していた。

 実際には感染拡大に歯止めがかからず、岐阜県は一定地域内でイノシシを「捕り切る」(古田肇知事)作戦に着手。
感染イノシシが外側に移動しないよう防護柵を設けたり、高速道路施設などを利用したりして十六市町にぐるりと総延長百四十四キロの“壁”を構築し、
中に閉じ込める構想だった。昨年十二月から今年三月、防護柵の設置などに六億九百万円を投入した。
だが、感染は国や県の想定を上回る速度で進行。
事業に着手した直後には、早くも愛知県犬山市など壁の外側で感染が確認され始め、壁の意義は薄れた。

今年三月以降、岐阜県は新たにイノシシに豚コレラの免疫を付ける経口ワクチンの散布を開始。
中部各県も試みるが、効果は未知数だ。

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