日産自動車の西川(さいかわ)広人社長が辞意を固めたのは、不正報酬問題の発覚で社内外からの批判が強まって求心力が低下し、引き続き経営のかじ取りを担っていくことが難しいと判断したからだ。西川氏には以前から、前会長、カルロス・ゴーン被告の事件を防げなかったことや、業績を悪化させた責任が指摘されてきた。日産は6月下旬に西川氏のトップ続投を前提とした新しい経営体制を固めたばかりで、社内の混乱は不可避の情勢だ。

 4日夜に西川氏の不正報酬が発覚したが、日産社内からは「(6月発売の月刊誌『文芸春秋』の報道で)すでに出ていた話で、今さら大騒ぎすることはない」(関係者)と、早期の問題収束を見通す声も出ていた。社内調査結果を報告する9日の取締役会でも、辞任までは求めない情勢だった。

 しかし、ゴーン被告による会社の「私物化」を指弾してきた西川氏自身の不正だけに、問題発覚後に噴出した批判は予想以上に厳しかったようだ。西川氏は5日朝に不正報酬を釈明した際、他の複数の役員にも同様の行為があったと明らかにした上で「ゴーン体制時代の仕組みの一つだ」と強調。自身の不正さえも、ゴーン被告の責任に転嫁した姿勢は潔くなかった。

 社外取締役からは「西川氏の問題は法律違反ではなく、ゴーン被告の犯罪とは全く違う」という指摘もあったが、一般の消費者にとってはいずれも報酬に関する不正に変わりはない。車という高額な商品を販売する自動車メーカーにとって、ブランドイメージが極めて重要なことも、西川氏の決断の背景にありそうだ。

 後任の選定は難航が予想される。日産は6月下旬の株主総会で社外取締役が過半数を占める体制に移行したため、現在の取締役の中から選ぶのは容易でない。元経産官僚の豊田正和氏が委員長を務める指名委員会で議論していくが、執行役員を昇格させたり、外部から招聘(しょうへい)することを決めるには時間がかかりそうだ。

 このため、西川氏が来年6月の定時株主総会まで続ける可能性もあるが、退任の決まっているトップが続投しても求心力を取り戻すのは難しい。来春頃に始まるゴーン被告の裁判でも、ゴーン被告側が西川氏批判を繰り広げる見通しで、トップにとどまれば経営への影響は避けられない。ポスト西川体制に向け、日産の前途は多難だ。(高橋寛次)

2019.9.9 07:07| 産経新聞
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