いかにソ連に捕われの身とはいえ、
あまりにも甚だしきその態度の豹変ぶりに驚き、
きく者みな口をきわめて罵倒し、
日本はこの不良児を永年の間世話をしてきたのか。
皇室もまことにお気の毒であったと臍をかむ者も多かった。
(略)
満洲皇帝同様数人の将官たちがソ連に拘禁されたまま、
あるいは宣誓口供書をつくらされ、
あるいは直接証言台に立つべく、日本に空輸されて来た。

その中の一人草場辰巳中将は、
昭和21年9月20日夜、検察側監視の隙を窺って自決した。
拘禁中に作成させられた口供書が、その本意でないことは想像に難くない。
しかもソ連の粛清工作には常にこの偽りの口供書がつきものである。
(略)
しかしいやしくも、もと軍の幹部として栄位にいた者として、
遠く異境において作成した口供書はとにかく、今、故国に還り、
かつての上官、同僚の罪を裁く資料として証言を徴せらるるに際して、
どうして嘘がいえようか。

いわなければ殺されることは必定だとすれば、
いわずに死んだ方がどれだけましか知れないと、
意を決して懐かしき故国の土と化したことは、
武人として本懐であったであろう。