2019年12月19日

ここ数年,全方位に"オープンソースLOVE"をアピールしているMicrosoftだが,その一方でOfficeやWindows Serverなどプロプライエタリ製品のライセンス料は,同社のビジネスにおけるもっとも重要な収益の柱である。しかもその料金は年々高騰を続けており,多くの企業がコスト削減のためにこの縛りから抜けたいと願いつつも,複雑怪奇なライセンス体系と,Windows 7やWindows Server 2003などレガシー環境の上に構築したアプリケーションの移植がボトルネックとなっていることも多い。

こうしたMicrosoft製品の支配から脱却すべく,オープンソースやクラウドへの移行を積極的に進める動きがグローバルで起こっており,たとえば本コラムで何度か紹介したように,欧州の地方自治体の中にはLinuxやLibreOfficeへのリプレースに数年がかりで取り組んでいるところもある。IT予算と人員確保が企業以上に大きな課題となるパブリックセクターにとって,Microsoftのライセンス料値上げは公共サービスの安定的な提供を危うくする死活問題といっても過言ではない。

スイス・ジュネーブに本拠を置く欧州原子核研究機構,通称CERNもMicrosoftのライセンス縛りに苦労してきた組織である。2019年3月,MicrosoftはこれまでCERNに提供してきた割引を中止,これによりCERNがMicrosoftに払うライセンス料は10倍以上に膨れ上がり,数多くの研究に支障をきたすことになる。このままではサステナブルな研究体制を維持できないと判断したCERNは,6月に脱Microsoftプロジェクトとして「MALT(Microsoft ALTanative�j�vを立ち上げ,数年をかけてでもMicrosoftのプロプライエタリから抜け出し,オープンソースをベースにした環境を構築する決意を表明した。

The MALT Project

Microsoft製品のかわりにどんなオープンソースが採用されるのか。先日,CERNはプロジェクトの進捗の一部をサイトで公開している。

MALT: Services Alternatives

ownCloud,Wordpress,Drupal,Elasticsearchなどよく知られたソフトウェアのほかにも,PostgreSQLやMariaDBベースで構築する「CERN DB OnDemand」など,既存のオープンソースをベースにCERN自身が開発するソフトウェアも多く見られる。ほとんどがまだ評価中の段階であり,稼働までには長い時間を要するが,もともとオープンソースのユースケースを数多く積み上げてきた実績をもつCERNだけに,MALTの進捗は同じ悩みを抱える企業や組織はもちろんのこと,オープンソースコミュニティにも大きな影響を与えるのは間違いないだろう。

https://gihyo.jp/admin/clip/01/linux_dt/201912/19