【北京=多部田俊輔】中国で2020年1月1日に「暗号法」が施行される。暗号が支えるデジタル時代の中核技術「ブロックチェーン(分散型台帳)」を育て、これを使うとみられる通貨「デジタル人民元」の発行に向けた法整備を進める。暗号を国家の安全を守る核心的技術と位置づけ、中国共産党によるインターネット空間の統制を一段と強める狙いもある。

暗号法は19年10月に成立した。中国共産党が暗号分野の指揮を執ると明記した。国家の極秘情報を守る「核心暗号」、機密情報を保護する「一般暗号」、政府の情報インフラや国民生活などにかかわる情報に関わる「商用暗号」の3つに分類する。核心、一般は中国政府が厳格に管理する一方、商用暗号を巡っては産業育成に力を入れる。

中国の中央銀行である中国人民銀行はデジタル人民元の発行に向けた準備を進めている。発行に必要な技術としてブロックチェーンの採用が有力視されている。デジタル通貨の発行が実現すれば主要国で初めてとなる。

中国当局はデジタル通貨の発行で金融機関の事務負担を減らすだけでなく、資金面から国民の監視を強める狙いもありそうだ。米フェイスブックが発行を計画するデジタル通貨「リブラ」には各国の通貨当局が懸念を示す。中国がいち早くデジタル通貨を発行できれば、人民元の国際化が一気に進む可能性もある。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は暗号法の成立に際して「(中国政府が)ブロックチェーンの技術の発展を加速させる」と強調した。

中国当局はビットコインなど暗号資産(仮想通貨)の取り締まりを強化している。このためブロックチェーンの普及先として、海外送金や、原材料の原産地から製造・流通の工程記録の改ざんを防ぐ製造、物流の管理などを想定している。

中国の調査会社、前瞻産業研究院によると、18年の中国のブロックチェーン産業の規模は6700万元(約10億円)にすぎなかった。だが、中国政府の後押しで、22年には4億5900万元に膨らむと予想する。

暗号法は、中国政府が国家や業界の暗号の基準作りを担うと規定する。外資を含む企業運営への影響について、情報分野に詳しい中国国内の企業の幹部は「具体的な運用を決める細則が明らかにならないと、詳細はわからない」と指摘する。

2019/12/30 18:59 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53993800Q9A231C1FF8000/