■日本人の美学に『わび・さび』というものがある
これは不完全なものの中に美しさを見出すことを指すという。

侘寂とは日本人の美意識であり、儚さや不完全さを受け入れるという世界観この美は不完全・刹那的・未完の美とも描写されることがある。仏教の教えから派生した概念であり具体的には諸行無常・苦悩・自然の中にある空虚さの3つが関係している




■本当の美は、心の中で未完成なものを完成させようとする者によってのみ、発見されるべきものです

岡倉天心

 これはフェノロサに師事し、近代日本美術の発展に尽力した美術指導者、岡倉天心の言葉だ。

 以前にも紹介した天心の著『THE BOOK OF TEA(茶の本)』から抜粋したのだが、ここには東洋の精神のみならず、茶の湯の世界からみえるこの世の真理が記されているのではないかと思う。
西洋でも今なお読み継がれているのもわかる気がする。

 古来より日本人は、満月よりも三日月や欠けた月に、そこはかとない美しさを見出した。
 千利休が唱えた「わびさび」も、そのあらわれだろう。

 茶道の本質は「不完全なもの」を崇拝することだと天心は言っているが、それは、不完全であるがゆえに周りとの調和を計ろうとする慎み深さや謙虚であることの大切さを言っている。
 
 茶道による「おもてなし」は、単なる相手を持ち上げる接待やサービスのことではない。
 欠けている者同士、互いに譲り合い補い合って、ともに良い時間を過ごしましょうということだ。
 もてなす側はもちろん、もてなされる側も礼儀を心得るのが、本当の「おもてなし」である。

 天心が言う「本当の美」とは、文化や芸術をとおして「人間の美」を問うている。
 欠けていることを素直に認めれば、人への思いやりや優しさは自然に生まれるはずだ。
 欠けているからこそ、一生懸命な姿はそれを補ってなお美しい。