■不足の美

 京都西本願寺に、飛雲閣 (ひうんかく) という名の
建物があります。三層の楼閣建築で、金閣・銀閣と
並んで、京都三名閣のひとつとされており、国宝の
建築物です。
 そんな飛雲閣の大きな特徴は、金閣や銀閣とは
明らかに異なる、非対称でアンバランスな外観です。
  唐破風(からはふう)と、千鳥破風(ちどりはふう)で構成された多様な屋根、外壁には
 火頭窓(かとうまど)や、軍配形の窓が配されており、2層には三十六歌仙が描かれた
 美しい建具も見られ、にぎやかで何とも複雑怪奇な様相です。
  そんなユニークで奇抜なデザインに、まとまりが無く稚拙な印象を感じてしまいそうですが、
 実際に建物を目の前にすると、全体が絶妙なバランスで保たれている事に、次第に気付か
 されます。あまりに自由奔放で、不完全にも思えるはずが、危ういながらも、各部が軽妙に
 関係し合っているのか、躍動的な中にも不思議に落ち着きさえ感じます。
  西洋の美が均整や完璧、華麗さを求めるのに対して、私たち日本人の持つ美意識の
 背景には、不均整や不完全、簡素ものに余情を感じる部分があり、それらは、古くから
 「わび」や「さび」、「数寄」、「幽玄」 などの言葉に表現されて来ました。
  庭園を例にあげれば、西洋においては秩序ある幾何学的なデザインを用い、シンメトリー
 (左右対称)で人工的な美しさを求めるのに対し、日本では自然との調和を基本にしながら、
 そこに思想や情景をテーマに庭園をかたちづくります。
  重心を意識しながら、不等辺三角形に要素を配置するその手法は、華道や生け花の
 アシンメトリー (非対称)の造形と共通するものがあります。
  そこでは、あえて均整を破る事により、それぞれの要素がお互いの個性を強調しあったり、
 欠点を補う効果が生まれます。また、変化のある造形が、奥行きのある空間の創造をもたら
 します。
  また、造形の世界に限らず、音楽や古典芸能においても、「余韻」や「間」は、その美しさを、
 より引立たせる大切な要素とされています