ビール業界最大手のアサヒビールが、2020年からビール類の販売数量の公表を取りやめる。各社のシェア推計が困難になるとあって業界は騒然。キリンとの熾烈なシェア争いに負ける前に逃げ出したいというアサヒの思惑も見え隠れする。(ダイヤモンド編集部 山本興陽)

● 新年早々の事業方針説明会で 競合社長からアサヒへの苦言噴出

 「本音を申し上げると、20年は酒税改正のタイミングで業界をあげて頑張っていこうとしているのに、市場全体が見えなくなり残念だ」

 新年早々、シェア争いでは火花を散らすものの、他社にケチをつけない“紳士”なビール業界で、異例の言及だった。1月9日、東京都内で開催されたサントリービールの事業方針説明会。西田英一郎社長は他社の戦略を公然と批判したのだ。

 西田社長が矛先を向けたのは、ビール業界最大手のアサヒビールに対してである。

 アサヒは19年12月に、ビール類全体の販売数量の公表を20年の統計分から取りやめると発表。今後は販売数量の代わりに、金額ベースの公表を行う方針を打ち出した。

 この変更によって、20年以降、アサヒ・キリン・サントリー・サッポロのビール大手4社のシェア推計が困難となるのだ。一方、アサヒを除いた各社はこれまで通り、数量ベースでの公表を続ける方針だ。

 20年の酒税改定で、ビールは350mlあたり77円かけられていた酒税が、7円引き下げられ70円となる。ビール離れに歯止めがかからない中にあって、業界にスポットライトが当たる年。市場で何が起きているのか、的確なシェアを把握することが非常に大切なはずだった。
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 ライバルのキリンビール布施孝之社長も「マーケット全体のトレンドが見えにくくなる」と1月8日の事業方針説明会で苦言を呈した。

 公表を取りやめる理由について、アサヒの担当者は、「経営指標を販売数量から、金額に切り替えるため」と説明する。しかし、同業他社からは、「非常に自分勝手な行動で呆れている」と不満が噴出していることに加え、熾烈なシェア争いから逃げ出したことも非難の対象だ。

 大手4社の販売数量に基づいた19年のビール類のアサヒビールのシェアは36.9%で、2位のキリンのシェアは35.2%。その差は18年の3.1ポイントから1.7ポイントまで縮まり、肉薄した。

 キリンが追い上げる背景には、新ジャンル「本麒麟」の大ヒットがある。20年にも猛追するキリンがアサヒを抜くとの予測もあり、「キリンに抜かれそうになったから、抜かれる前に公表をやめた」と指摘する声が業界では根強い。アサヒに追いつけ追い越せでやってきたキリンは、寸前で望みが絶たれた。

 リーディングカンパニーによる単独行動は、業界の慣例となっていたシェア至上主義に終止符を打つこととなった。

 ビール業界は、18年を最後に長年シェア算出の根拠となってきた課税出荷数量の公表をやめた。課税出荷数量とは、アサヒ、キリン、サントリー、サッポロ、オリオンの5社が加盟するビール酒造組合が92年から発表してきた統計だ。

 だが、近年はクラフトビールを手掛ける小規模なビール会社の出現などにより、実態に見合わないとされ18年の発表分をもって幕を下ろした。19年以降は、各社が公表する販売数量に基づいて各社のシェアを算出していくはずだっただけに、アサヒへの不信感はぬぐえない。

● “負けない”スーパードライは数字公表 ナンバーワンの称号は手放さない

 一方、アサヒにしてみれば、ビール類の販売数量の公表取りやめは、“逃げ得”の要素が複数ある。

 「シェア争いは終焉を迎えるべき」(アサヒビール・塩沢賢一社長)と言うものの、ビール類でナンバーワンという称号を持ったまま、シェア争いからの脱出に成功できるからだ。

 加えて、ビール類の販売数量の公表を取りやめる一方で、ビール「スーパードライ」、発泡酒「スタイルフリー」、新ジャンル「クリアアサヒ」の主力3ブランドについては、20年以降も販売数量の公表を続ける。中でも、スーパードライの販売数量公表継続はメリットが大きい。

 19年の国内販売数量で、ビールで2番手につけるキリンの「一番搾り」が2910万ケースであるのに対し、スーパードライは8355万ケースとなっており、圧倒的な差だ。

 アサヒホールディングスはグローバル化に注力し、海外事業だけで事業利益の40%超を稼ぎ出している。その世界戦略の中心に据えられているのが、他ならぬスーパードライだ。


1/10(金) 6:01配信  全文はソース元で
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