「Crab mentality(カニ脳)」とは、「生きたカニを何匹かバケツの中に入れると、先にバケツから逃げ出しそうになったカニの足を他のカニが引っぱって結局どのカニも逃げられない」という逸話を、人の足を引っぱる心理になぞらえたもの。
そんな「カニ脳」からどうやって脱却すればいいのかについて、複数の研究者やライターが論じています。

「カニ脳」という言葉を最初に取り上げたのは、フィリピン人作家Ninotchka Rosca氏で、「自分が手に入れられない物は、他の人にも手に入れさせたくない」というフィリピン人の良くない気質を的確に言い表したものとして、フィリピンでは有名なフレーズだとのこと。
とはいえ、日本にも似た意味の「出る杭は打たれる」ということわざがあるほか、オンライン掲示板redditにある「イギリス暮らしで一番嫌なことって何?」というスレッドに、「カニ脳」と回答する人もいることから、どんな国の人でも他者をうらやむという心理とは無縁ではないといえます。

イギリスのロンドンを拠点とするフリーランスのライターであるサム・ウルフ氏も、自分自身の「カニ脳」に悩まされたことがあるイギリス人の1人。
ウルフ氏は「他の誰かが称賛を受けたり、新しく交友関係を築いたり、新しい仕事に就いたり、ユニークで素晴らしい経験をしたりしているのを見ると、苦々しく感じてしまいます。恐ろしいことに、その誰かが友だちでも同じ反応をしてしまうこともあります」と心中を吐露しました。

ウルフ氏によると、「カニ脳」は嫉妬・恥・悪意・不安・自尊心の低さ・自己批判・競争心など、さまざまな要因から生まれるとのことですが、とりわけ大きな原因は「誰かの成功や幸せが、何らかの形で自分の人生の喜びを吸い取ってしまうのではないか?」という発想です。
この発想にとらわれてしまうと、自分より優秀で、恵まれていて、幸運な人と自分を常に比較してしまうようになり、最後には不平不満ばかり口にするようになってしまうとのこと。

ウルフ氏は「人の足を引っぱって良い気分になれたとしても、それはいっときのもの」と指摘。
「カニ脳」から抜け出す方法については、「あれこれ考えず、手放しで人の成功や幸福を祝福するように心掛ければ、自分のインスピレーションやモチベーションも向上し、成長の糧とすることができます」と述べています。

また、教育や精神的な成熟の重要性を訴える声もあります。
オンライン署名サイトChange.orgで「カニ脳をストップさせましょう!」と主張するフィリピン在住のCeline Bonus氏は、「フィリピンは発展途上国で、国民の半分が満足に教育を受けられておらず、協調した生活を営む訓練ができていません。自分たちの文化や風習を見直して改めるには、ある程度の教育水準と精神のレベルが必要です」と訴えています。

「従業員が努力して成果を挙げても、他の誰かの成果になってしまうのは、『カニ脳』に起因しています」と指摘するのは、マニラのビジネス専門大学Ramon V. del Rosario College of Businessの修士課程の学生Noellen DelosSantos氏です。
DelosSantos氏によると、年功序列や官僚主義的な慣行が幅を利かせている組織では、上司の一方的な評価やトップダウンの意志決定プロセスが物を言うため、仕事の価値や結果が適切に評価されず、やがてカニのように足を引っ張り合う組織になってしまうとのこと。

そこで、「下からの意見を吸い上げて全体をまとめていくボトムアップ方式を導入することで、従業員の仕事への関心やモチベーションが向上し、足を引っぱるのではなくお互いを成長させ合う企業風土が培われます」とDelosSantos氏は論じています。
フィリピン情報を発信するサイトFAQ.phのライターであるVictorino Q. Abrugar氏は「団結あるところに勝利あり」という古代ローマの劇作家プブリウス・シルスの格言を引用し、「おそらく、『カニ脳』の最も有効な特効薬は団結です。人を助けると、自分自身を助けることにつながることをよく理解すべきです」と述べて、情けは人のためならずの精神が「カニ脳」からの脱却には重要だと説きました。

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https://gigazine.net/news/20200229-crab-mentality/