外国人観光客の減少はやむを得ないが(時事通信フォト)
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 出羽守(でわのかみ)とは、本来は出羽国(現在の山形県と秋田県)の国司(長官)のことをいうが、現在ではもっぱら海外(外国)の事例を「〜では」とあげ、日本はダメだと嘆く人たちのことを言う。SNSが普及するにつれて、出羽守たちの活躍の場も増えていたが、新型コロナウイルスの影響が世界に広がるにつれ、彼らの勢いが削がれている。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、コロナ出羽守の生態について解説する。

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 新型コロナの影響で、以前紹介した「出羽守」の皆様方がネット上で意気消沈している。出羽守とは、「欧米ではー」と、欧米の人権意識の高さや人々の崇高なる行動を称賛し、日本を叩く人々のことである。

 称賛の対象は筆頭が北欧、次いでフランス、ドイツ、民主党支持アメリカ人、カナダ、イタリア、オーストラリア、次いでその他が横並びとなる。中韓もなかなか上位に入ってくるが、中東や東南アジア、アフリカ、南米はあまり入らない。彼らの頭の中では、欧米ではエロ本が公共の場では売っておらず、誰もがレディーファーストで痴漢もDVもレイプもないということになっている。電車の痴漢の多さについては日本特有で言語道断だが、人口比のレイプ被害は明らかに日本がケタ違いに少ないというデータを見せると「日本人女性は泣き寝入りをしているから見せかけの数字でしかない」と反論する。

 そんな中、欧米に散らばる日本人(ないしは日系)SNSユーザーからひどい差別を受けているという報告が相次いでいる。豪ではバスに乗ろうとした女性が乗客から中指を突き付けられて乗車拒否され、運転手も同調。こんな報告だらけなのだ。

 彼らからすればアジア人は皆同じとしか見えないのだろうが、一気に差別感情が噴き出たわけだ。現在の日本で白人を見て「不潔なイタ公、あっち行け」なんて言うのと同じことだ。そんな馬鹿は糾弾されるべきである。これに対して出羽守の皆様が静かなのだ。

 数年前、大阪の寿司屋でワサビをたくさんつけて出されたと韓国人がツイートしたところ、反差別派日本人が「ヘイト寿司屋」認定し同店を猛烈に叩いて不買運動を呼びかけ、店にも電話突撃をした。店の言い分は「海外の客はワサビやガリの増量を求めるので予め多くした」ということだが、差別主義者認定したら後には引かない。

 結局日本の反差別活動家界隈は、「日本人による差別」しか問題にしないのである。彼らは日本人による差別行為が発生した場合は、世界中のメディアにツイッターで通報する。某イラストレーターが、「そうだ、難民しよう!」の言葉とともにシリア難民を揶揄する絵を描いた時などがまさにその代表例だろう。あとは、欅坂46がナチスを彷彿とさせる(と彼らが主張する)衣装を披露した時も同様の行為を行った。

 今回の世界中で吹き荒れる差別に対し、同様のことを彼らがしているのかといえばそうでもない。結局「白人様による差別は悪い差別ではない」という意識があるのだ。あるいは韓国人が済州島に不法滞在したイエメン難民に対し、差別的な言動をしてもこれにも何も言わない。ドイツでアラブ系の男が集団レイプをしてもこれはスルー。「出羽守」であり続けるためには、こうした事態には目をつぶらなくては自身のこれまでの主張がすべて覆されてしまうと考えているのだ。

 こうした姿勢が和製リベラルが支持されない原因の一つなのである。「全差別主義者はゲス」という考えではなく、「日本人による差別は許さない」だけで一致団結したからこそ、欧米様による差別が続々報告されても論理的な批判ができずスルーするだけになっている。

●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など

3/30(月) 16:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200330-00000018-pseven-soci