邱詠?(チョウユンウェン) さん(薬学系・博士3年)らは4月20日、アルツハイマー病(AD)発症の最初期に脳内で蓄積する「アミロイドβペプチド(Aβ)」の産生に関わる新規分子「CIB1」を同定し、産生制御機構を明らかにしたと発表した。ADの治療・予防への寄与が期待される。



 高齢者認知症の多くを占めるADは社会問題となっている一方、発症メカニズムは未解明で、根本治療法も確立されていない。今までの研究から、AD最初期に見られるAβの凝集・蓄積が、神経細胞内のタンパク質「タウ」の凝集・蓄積を引き起こし、神経の構造や機能に損失をきたすことが示唆されている。そのため、Aβの産生機構の理解がAD発症の最初期過程の解明につながるとされる。



 今回の研究では、ゲノム編集技術「CRISPR/Cas9」を用いて全ゲノムを網羅的に選別してAβ産生を抑制するタンパク質CIB1を同定。CIB1の発現量を減らすとAβ産生量が上昇することを確認し、CIB1がAβ産生を担う分子「γセクレターゼ」を細胞膜に局在させることでAβ産生量を調整する仕組みも解明された。



 次に、AD発症過程のCIB1の役割を検討するため、AD患者の死後脳サンプルデータを解析。AD最初期の神経細胞ではCIB1の発現量に減少が見られた。CIB1の発現量の減少によりAβ産生量が上昇し、AD発症過程を加速させる可能性が示唆された。



 今後、CIB1を標的とした新たなAD治療・予防戦略の提示や早期診断法の開発につながることが期待される。



東大新聞オンライン2020年5月18日
http://www.todaishimbun.org/alzheimers_disease20200518/