2020.5.25

バッシングを受けた神奈川県箱根町の駄菓子店

 中国湖北省武漢市が、新型コロナウイルスの感染拡大を理由に都市封鎖(ロックダウン)される直前の今年1月下旬のことだ。中国人観光客の入店を禁止する中国語の貼り紙を、店先に掲示した神奈川県箱根町の駄菓子店の店主が、国内外で批判の集中砲火を浴びた。

 あれから4カ月、あの店主はどうしているのか気になったので、電話で話を聞いてみた。

 店主は5年前に脱サラして、大人向けには昔懐かしの駄菓子屋をやり、固定ファン向けに趣味でスター・ウォーズの関連グッズの販売を始めた。

 店主は「差別するつもりで貼り紙をしたのではありません。『未知のウイルスが広がっている』というニュースを聞き、『これはかなり危険だ』と思い、自分の命と健康、お店を守るために貼ったのです。だって、誰も守ってくれないじゃないですか」と話す。

 貼り紙は初めてではない。マナーを守らない観光客向けに中国語の貼り紙を出していたという。「店内の畳の上に土足で上がり込んだり、注意しても聞いてくれなかったり、一部の中国人観光客のマナーが悪くて困っていた」という。

 店主によると、ウイルス感染を防ぐ理由で貼り紙を出した後、それを撮影した中国人観光客がネットに載せ、中国国内で炎上したという。店のホームページには、日本語で「人種差別だ」「殺すぞ」「中国人をなめるな、死ね」といった書き込みが殺到した。

 携帯電話にも無言電話や、片言の日本語で「中国人全員に謝れ」「今からそっちに行くからな」と脅迫が続いたという。

 日本のメディアで、真っ先に報じたのは朝日新聞だ。1月21日付電子版で、「新型肺炎を理由に『中国人は入店禁止』箱根の駄菓子店」との見出しで報じた。

 これに民放テレビのワイドショーが飛びついた。司会者に話を振られた男性コメンテーターが「これは明らかなヘイトです」と、店主のことを厳しく非難した。

 確かに、パソコンの変換ソフトを使った中国語の貼り紙は、差別だと誤解を招くような表現があった。理由が何であれ、差別表現は許されない。コメンテーターが言いたいことも理解できる。

 ただ、小さな駄菓子店の貼り紙と店主を、公共の電波を使って、出演者が寄ってたかってつるし上げる様子を見ていて、偽善的な匂いを感じた。

 もし、武漢から来た人が自身のホームパーティーに来たら、このコメンテーターは喜んで迎え入れるのだろうか? そうでなければ、自分だけ安全な場所にいて、きれいごとを言っているようにしか聞こえなかった。

 店主は「私の行き過ぎた行為で、常識のある中国の方の気分を害したことは反省しています。(その後、日本国内で新型コロナウイルスが感染拡大したことについては)正直、『ほら、言わんこっちゃない』という気持ちもあります。もっと早く、中国からの入国制限をしていれば、感染拡大も防げたのではないかと」と語る。

 4カ月前、店主を批判した人々は、この言葉をどう聞くのか。

 ■佐々木類(ささき・るい) 1964年、東京都生まれ。89年、産経新聞入社。警視庁で汚職事件などを担当後、政治部で首相官邸、自民党など各キャップ、政治部次長を歴任。この間、米バンダービルト大学公共政策研究所で客員研究員。2010年にワシントン支局長、九州総局長を経て、現在、論説副委員長。沖縄・尖閣諸島への上陸や、2度の訪朝など現場主義を貫く。主な著書に『日本が消える日』(ハート出版)、『静かなる日本侵略』(同)、『日本人はなぜこんなにも韓国人に甘いのか』(アイバス出版)など。

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/200525/pol2005250001-n1.html