「ポスト安倍」に意欲を示す自民党の稲田朋美幹事長代行が存在感をアピールしている。昨年から看板に据える「女性政策」に加え、新型コロナウイルス対策でも幅広く政策を提言している。安倍晋三首相の“秘蔵っ子”として厚遇を受けてきた稲田氏は防衛相時代、自衛隊の日報問題をめぐる引責辞任で失速した。しかし、昨年9月の党役員人事で幹事長代行に就任すると二階俊博幹事長と良好な関係を築き、党内での足場固めに精を出す。ただ、女性活躍をうたう一方で、首相や二階氏に頼る手法には疑問符も付く。

 「女性が働いている社会において、マイナンバーを(銀行)口座とひも付けして、次に(現金を)給付する際には世帯単位ではなく個人に届くようにという話をした。首相は前向きなお答えをされた」

 稲田氏は今月8日、首相官邸で首相と面会後、記者団にこう訴えた。

 新型コロナ対策の国民1人当たり10万円の一律給付をめぐっては「時間がかかりすぎる」との批判が出ている。このため自民党は党政調会のプロジェクトチーム(PT)で、マイナンバーと銀行口座をひも付け、災害発生時などの公金給付に迅速に対応するための法整備に向けた議論を行い、20日にまとめた令和2年度第2次補正予算案編成に向けた政府への提言に盛り込んだ。

 稲田氏はPTへの参加を希望し、家族のあり方が多様化する現状を踏まえ、世帯ではなく個人単位での現金給付を求めていた。

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 稲田氏は平成17年の衆院選で、当時党幹事長代理だった首相が保守派弁護士としての活動に目をとめ政界入り。第2次安倍政権では当選わずか3回で行政改革担当相、同4回で党政調会長を歴任した。しかし、防衛相時代の29年、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報問題で引責辞任に追い込まれた。

 しばらく活動を自粛していたが昨年3月、猪口邦子元少子化担当相や佐藤ゆかり衆院議員らと女性限定の議員連盟「女性議員飛躍の会」を結成。昨年末の税制改正大綱をめぐる議論では配偶者と死別・離婚した一人親の所得税などを軽減する「寡婦(夫)控除」の対象に未婚の一人親を加えるために奔走した。また、もともと反対していた選択的夫婦別姓にも理解を示すなど、伝統的な家族観を重視する党内保守層を驚かせた。

 昨年9月の党役員人事で幹事長代行に就任すると二階氏との良好な関係を足掛かりに活動をさらに活発化。同11月には女性議員が意見交換を行う交流の場として「女性政策推進室」が党本部に設置され、稲田氏は初代室長に就いた。看板掛けには二階氏も駆け付けている。

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 コロナ対策をめぐっても稲田氏は存在感をアピール。頻繁に首相官邸に足を運んでは妊婦や一人親家庭への支援、看護師らへの現金支給、学生への支援を首相に提言。休校の長期化を受け、政府・与党が導入の可否を検討している9月入学制についても前向きに検討するよう首相に要望した。

 最近、稲田氏は政調関係者に新型コロナ対策に関する議論の報告を求めるようにもなったという。党の政策立案を担う政調会の頭越しに首相への提言を繰り返す稲田氏に対して、政調幹部は「党内議論をまとめるのがどんなに大変なことか分かっているのか。調子に乗っているのでは」と不快感を隠さない。党関係者も稲田氏の行動について「首相が後継と目する岸田氏にライバル心があるのではないか」「もっと汗をかかないとダメだ」と手厳しい。

 稲田氏は3月19日のTBSのCS番組収録で「党の『おじさん政治』をぶっ壊す」と決意を表明した。男性議員中心の永田町の風潮を改革したいとの思いの表れとみられる。だが一方で「飛躍の会」が4月に出版した政策提言集「女性議員が永田町の壁を砕く!」(成甲書房)に言葉を寄せているのは男性議員の重鎮である二階氏だ。

 稲田氏が所属する党最大派閥細田派(清和政策研究会)では稲田氏のほか、下村博文選対委員長も「ポスト安倍」へ名乗りを上げ、新型コロナ対応で露出が増えている西村康稔経済再生担当相の名前も挙がる。ただ、派内に衆目の一致する候補はいない。稲田氏の足場となる「飛躍の会」のメンバーも、総裁選となればそれぞれが所属する派閥の方針に従わざるを得ない。メンバーの1人は「仲が良くても総裁選となると話は別よ」とつれない。

 総裁選の立候補には党所属国会議員20人の推薦が必要だ。「おじさん政治」をぶっ壊して仲間づくりができるのか、今後の稲田氏の行動が注目される。(長嶋雅子)

産経ニュース 2020.5.25 01:00
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