2020年5月27日 18:00
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO59637700X20C20A5910M00

【モスクワ=石川陽平】ロシアのプーチン大統領の支持率が低下している。新型コロナウイルスの感染拡大と景気の急速な悪化が影響し、2カ月連続で過去最低の59%となった。プーチン氏の5選に道を開く憲法改正法案の是非を問う全国投票を控える政権は、焦りの色を濃くしている。26日には、延期していた対ドイツ戦勝75年の軍事パレードを早期に開催する決定に踏み切った。

独立系調査機関レバダセンターが22〜24日に実施した最新の世論調査の結果によると、プーチン大統領の5月の支持率は4月に続いて59%となった。2000年5月の大統領就任以降、過去最低は13年11月につけた61%だった。一方、支持しないとの回答は34%で、過去最高だった同じ月の37%に迫った。

プーチン氏は国民から強い支持を受け、20年に及ぶ政治体制を築いてきた。特に14年3月にウクライナ南部クリミア半島を武力で併合した後は90%台の支持率を誇った。だが、その後は経済の停滞で支持率が下降。追い打ちをかけるようにさらに今回の新型コロナによる危機で国民生活が悪化し、不満がじわりと広がっている。

支持率の低下にプーチン氏は懸念を強めているとみられ、求心力の回復を急ぐ考えだ。26日午後には「感染のピークは過ぎ、(状況は)安定してきた」と強調し、新型コロナで5月9日から延期していた第2次世界大戦での旧ソ連の対独戦勝75年の軍事パレードを6月24日に開催すると表明した。

ただ、ロシアは米国とブラジルに次いで多い世界3位の新型コロナ感染者を抱えており、5月26日にも1日に約8900人の新規感染者が出たと発表したばかりだ。早期の収束がなお不透明な中で、モスクワの赤の広場と地方都市で大々的なパレードを実施するのは、少し性急にみえる。

プーチン氏の背中を押しているのは、改憲の是非を巡る全国投票だ。4月22日から延期を余儀なくされていたが、愛国主義を鼓舞する軍事パレードから間を開けずに実施し、「プーチン体制」のさらなる長期化へ多くの賛成票を集める思惑だ。

インタファクス通信は5月26日、情報筋の話として、政権が全国投票を7月1日か8日に行うことを検討していると伝えた。先延ばしすれば、20年の成長率がマイナス5%と予想する経済状況で国民生活が厳しさを増し、支持率が一段と下がりかねない。9月の統一地方選と同日実施では、全国投票の集票活動が十分できない可能性もある。

焦るプーチン氏には、新型コロナ対策を巡る戦術ミスもあった。3月下旬からモスクワ中心部のクレムリンを離れ、市郊外の大統領公邸にほぼ滞在しており、3月下旬には一時国営テレビに映る場面も減った。感染リスクを避け、社会から自らを隔離したとの印象を拭えなくなっている。一方、陣頭指揮に立つモスクワのソビャニン市長ら一部の地方自治体トップの支持率は高まっている。

23日には、プーチン氏がインターネットを通じた電子投票や郵送での投票を認める新法に署名したことがわかった。政権が今後も強引な集票策を展開する可能性がある。