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■マイノリティを悪役に

トランプ大統領の政治的影響力の源泉の1つは、自分たちの幸せがマイノリティ(少数派)によって奪われたと考える白人保守層の不満と怒りだ。
トランプ氏は、そうした白人保守層の不満や怒りを増幅させることで安定した支持率を維持し、
その支持率を武器に議会の共和党議員に影響力を行使し、自らの支持層が喜ぶ政策を実現。
それによってさらに支持基盤を固めるという戦略をとってきた。これは再選に向けた戦略の柱でもある。

白人保守層の不満や怒りを増幅させたり、歓心を買ったりするには、
白人保守層が目の敵にするマイノリティを悪者に仕立てて懲らしめるのが手っ取り早い、とトランプ氏は考えた。
そのために進めたのが、不法移民の徹底した取り締まりやメキシコとの国境沿いの壁の建設、
貧困層が多いマイノリティに結果的により大きな打撃を与えることになる医療保険制度改革の見直しだ。

(中略)
■トランプ離れが始まった

しかし今、トランプ大統領の行き過ぎた分断政策は、皮肉なことに、反トランプで社会が結束し始めるという、本人の目論見と正反対の方向に進み始めている。

今月2日から3日にかけて公共ラジオ放送NPRなどが実施した世論調査によると、トランプ大統領を支持すると答えた有権者は41%で、
3月中旬の43%から2ポイント減少。支持しないは、逆に50%から55%へと5ポイント増えた。
支持するの中でも、強く支持するとの答えは32%から28%と4ポイント減っており、岩盤と言われる支持基盤に亀裂が生じつつあることをうかがわせる。
トランプ大統領の抗議デモへの対応に関しては、全体の67%、白人の63%がかえって「緊張を高めた」と答えるなど、
有権者の3人に2人がデモ対応を批判していることがわかった。

調査機関PRRIの調査では、トランプ大統領の強固な支持層の1つであるキリスト教福音派の支持率が3月の77%から5月には62%に急落するなど、
宗教票もトランプ離れを起こしつつある。今月1日、ホワイトハウス近くに集まったデモ隊を警官隊が催涙ガスなどで蹴散らす中、
トランプ大統領が近くの教会の前でわざわざ聖書を掲げてみせたのは、福音派などへのアピールが目的と見られているが、
このパフォーマンスは逆に、「宗教を政治利用している」として宗教関係者の厳しい批判を招いた。

■気が付けば自分がマイノリティに

産業界もトランプ大統領の政策や政治手法に異議を唱え始めている。
ツイッターがお得意様であるはずのトランプ氏のツイートに暴力をあおる内容だとして警告表示を付けたほか、
多くの著名企業が自社のSNSの画面を黒塗りにして黒人差別に抗議の意思表示を始めた。いまや大統領は四面楚歌の状態だ。

自らの政治的野望をかなえるためにマイノリティを悪役に仕立て、利用してきたトランプ大統領。
だが、気が付けば、自分がすっかり世論のマイノリティになってしまっていたのだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/inosehijiri/20200607-00182278/