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 相次ぐSOSにひっ迫する現場 「福祉崩壊」を訴える声も
 真面目に働く意欲のある30〜40代が住まいを失い、路上に追いやられる。そうした動きがコロナ禍の影響で急速に広がり、支援団体へのSOSが急増
 している。34の支援団体が連携する「新型コロナウイルス災害緊急アクション」の事務局長、瀬戸大作さんはほぼ毎日、SOSを発する人の元に駆け
 つけ、その日の宿泊場所を確保するなどしている。SOSの発信源は東京都内だけでなく埼玉、千葉、栃木、神奈川、静岡に及び、車を飛ばして行っ
 ても本人が現れず、会えずに帰ってくることもあった。SOSを発する中には何日も食べていない人も珍しくなく、所持金はほとんどの人が数百円。
 昼の間に泊まる場所や仕事を探そうとし、夜になってどうにもならずSOSを送ってくることが多い。自殺をほのめかす人もいる。助けを求めてくる
 のは当初、多くが20〜40代の男性だったという。5月上旬は1日3件のSOSに対処することも珍しくない状態が続いた。現在も、終日対応に追われる日
 が休みなく続いている。
 宿代や食費は「新型コロナウイルス災害緊急アクション」への寄付金からなる「緊急ささえあい基金」から給付する。3月24日に「新型コロナウイ
 ルス災害緊急アクション」を設立してから5月24日までの間に、約210件のSOSに対処し、緊急の宿泊費、食費などに基金から計520万円を給付した。
 日を重ねるごとに助けを求める連絡は増え続け、現場はひっ迫してきている。それぞれの当事者を支援団体につないだり相談役を確保したりするた
 め、人との接触も増え、誰もが感染リスクにもさらされている。支援が追い付かず、「福祉崩壊」を訴える声が現場で上がり始めている。
 それでもSOSが入れば、夜中でも当事者の元に駆けつける瀬戸さん。原発避難者支援団体「避難の協同センター」の事務局長も務め、2017年には原
 発事故後福島から首都圏に避難していた50代女性を支援していたが、公的支援が打ち切られ、女性が自らの命を絶ってしまったことがあった。
「SOSへの対応を次の日に回すと、死んでしまうかもしれない」。だから支援の手を緩めることはできない。

支援の利用に「たらい回し」対応も 自らを責める当事者
 緊急事態宣言発令前日の4月6日、東京都は「失業などで住まいを失った人への支援に12億円を計上した」と発表した。ビジネスホテルなどの緊急一
 時宿泊場所100室、一時利用住宅500室を用意するというものだ。5月20日時点で、のべ997人が都の用意したビジネスホテルを利用している。
 しかし、実際に利用しようとした支援者によると、4月下旬時点では受付窓口が公表されていなかったため、ビジネスホテルの提供を受けるまで、
 区市役所など複数の窓口を回らねばならなかったという。手続きには支援窓口の職員、当事者、支援者が、感染リスクもある中、長い場合は4時間
 以上も個室にこもって、面談や書類作成をしなければならなかった。窓口で申請ができず混乱する当事者もいたという(現在では困窮状況によって
 受付窓口が異なる点が広報されている)。
 千葉の「道の駅」で救済された男性は、「政治のことはよくわからない」と言う。車上生活になりSOSを発するに至ったのは「自分の責任でしょうね
 」とも話した。
 コロナ禍がセーフティネットの脆弱さをあぶり出す半面、困窮する当事者は「住まいを失う」という極限状態に陥っても、それを「自己責任」だと
 言う。取材時、瀬戸さんがぽつりとこぼした。「貧困というのは、優しくない社会の結果だよね」。