近年、ドローンの開発や使用は急速に広まっています。その中で最も一般的なドローンと言えば、4つのプロペラによってホバリングするクアッドコプターでしょう。

一方、鳥に近い動作で飛行するドローンも開発されています。

シンガポール国立大学機械工学科のヤオウェイ・チン博士は、シンガポール、オーストラリア、中国、台湾からなる国際的なエンジニアチームによって、羽ばたきで飛行やホバリングが可能なドローンを開発しました。

■ ドローンの進化

従来のプロペラを利用した「クアッドコプター」ドローンは、ホバリング(空中停止)や上昇が得意な機体です。

しかし、プロペラを利用しているため、ある程度の重量と電力が必要になってきます。また、接触したときにプロペラの回転が植物や動物、人を傷つける恐れもありました。

こうした背景にあって、鳥類を模倣したドローンも開発されるようになっています。それら既存の鳥類型ドローンは、旋回や滑空、前方・後方飛行が可能です。

ただし、ホバリングや上昇機能は実現できておらず、安定性や使用用途に限界がありました。

この問題を克服するため、研究チームは世界最速の鳥類の1つであるアマツバメ(swift)の飛行を模倣しました。

これにより、羽ばたきによって前進するだけでなく、素早く曲がったりホバリングしたり上昇したりすることが可能になったのです。

■ エネルギー効率が高い「羽ばたくドローン」

新しいドローンはポリウレタンフィルムとカーボンファイバーで作られたX字型の翼、モーター、バッテリー、発泡スチロール製の後方フィンから成り立っています。

加えて、胴体長20センチのドローンの重量はわずか26グラムであり、小麦粉大さじ2杯ほどの重さしかありません。

動画:https://nazology.net/wp-content/uploads/2020/07/ezgif.com-gif-maker-3.gif

チン氏によると、「ドローンがホバリングし素早く曲がるためには、余剰推力が必要になります。そして、新しいドローンは重量の約40%の余剰推力を持っているため、それが可能なのです」とのこと。

余剰推力(水平飛行に必要な推力以上の力)は、エネルギー効率を最大化することでより得られます。

この点、新しいドローンは超軽量であり、ナイロン製の蝶番(ちょうつがい)のある翼は揺れを最小限に抑え、羽ばたき中の失われた運動エネルギーを回復するのに役立ちます。

また、秒速8メートルの速度で飛行でき、1回の充電につき8分間飛び続けることも可能。

新ドローンの高いエネルギー効率が、これまでにない広範な動きを可能にしているのですね。

■ 羽ばたくドローンは植物や生物の近くで利用できる

新ドローンの羽ばたきはプロペラと比べて回転が遅く柔軟です。そのため、生物や植物を傷つけるリスクが小さく、作物の監視・ホバリングによる受粉作業に効果的だとされています。

そのような安全性に加えて、急速に曲がったり停止したりできるため、人間が近い雑然とした環境にも適応します。

また、強風下でも高い安定性を誇るため、空港から鳥を追い出す(ジェットエンジンに巻き込まれないようにする)ためにも使用できるでしょう。

設計を改善することで、カメラなどの電子機器を運ぶこともできると考えられており、群衆と交通の監視・情報収集、森林と野生生物の調査に使用可能とのこと。

このように生物学を適応した開発は、ドローンに大きな進展をもたらしました。

しかし、チン氏は今回のドローンでさえ、「せいぜい生物学的飛行の10%を複製しているに過ぎない」と述べています。

アマツバメの秒速31メートル(時速112キロ)飛行や、鳥類や昆虫がもつ翼の折り畳み機能によるエネルギー節約など、追及すべき要素は数多くあります。

今後、それらの機能もドローンへと適用できるよう研究が続けられていくことでしょう。

この研究は7月22日、「Science Robotics」に掲載されました。

https://nazology.net/archives/65196