毎日新聞2020年7月27日 11時34分(最終更新 7月27日 12時12分)

 「私は王族の末裔(まつえい)。海外にある資産を回収して王国を建国するために支援してくれれば、1・5倍にして返す」――。そんなうたい文句で多額の金をだまし取ったとして、詐欺罪に問われた住居不定、会社役員、王見禎宏被告(67)の判決が28日、福井地裁で言い渡される。

 6月1日に福井地裁で開かれた王見被告の論告求刑公判。4月に懲役5年の判決を受け控訴した東京都文京区、会社役員、五百旗頭(いおきべ)正男被告(71)と共謀し、2013年に東京都と福井県の2人から計6150万円をだまし取ったとされる王見被告に検察側は懲役5年を求刑した。しかし、王見被告は最終意見陳述で資産が存在すると信じて疑わない様子だった。「逮捕されたからといって事業が終わるわけではない。生きている限りやりとげなければならないという責務がある」などとよどみなく話した。

 五百旗頭被告の判決や起訴状によると、王見被告らが描く事業とはこうだ。

 明治天皇の父である孝明天皇がバチカン市国に数十兆円という膨大な資産を隠しており、その引受人が王族の末裔の王見被告である。その資産を引き出すため、英国南東部の都市ブライトンに王見被告が元首となる信託統治領「ブライトン王国」をつくり、バチカン市国に眠る資産を運用する金融機関を設立する。そのための経費として支援金を募る――。

 孝明天皇やブライトン、バチカン市国といった実在の人物や地名以外は王見被告らが作り出した架空の話だ。

 王見被告は1953年、広島県に生まれた。王見姓は孝明天皇から授けられた王族の末裔を示すものだと父親から聞き、家系が特別なものだと思いこむようになったという。皇学館大学(三重県伊勢市)では古代や中世の歴史を学んだ。90年に上京。96年に海外の投資話を通じて五百旗頭被告と知り合う。

 五百旗頭被告の判決によると、当時から王見被告は自分が王族の末裔だと周囲に吹聴していたといい、五百旗頭被告が王見被告の出自に対する自負を利用し、犯行を計画したとみられる。

 2000年以降、王見被告の財産や「ブライトン王国」に関する情報が王見被告の元に届くようになった。00年ごろ、2人の共通の知人から英国の会計省に王見被告の財産200億円があると聞かされ、英語が得意な五百旗頭被告と渡英したがそのような財産は確認できなかった。

 02年には王見被告のために五百旗頭被告が米ニューヨークに留学する必要があるという書面が「チャールズ伯爵」らから届いた。王見被告は数百万円を五百旗頭被告に渡したが、五百旗頭被告は渡米することはなかった。

 その後も、02年に「(王見被告が)欧州連合銀行の理事に欧州王族連合と英国王族代表として推薦された」という文書が「欧州連合認証部門代表キャビン・ジョージ」から届き、06年には「欧州王室連合」の「デヴィッド・ヴァン・ダイク」から「英国のブライトンに王見被告を元首とする信託統治領をつくり、資産を運用する金融機関を設立するための経費が必要だ」という書簡が届いた。これらは五百旗頭被告が作成したものだったが、王見被告は自身の出生が特別なものだと確信を持つようになった。

 これ以降、王見被告らは支援者から現金を集めるようになった。時にはセミナーを開き「王見は王族の末裔で外国にある多額の資産を引き出せればブライトン王国の王になれる。そのための費用が必要で、支援してもらった経費は5割増しにして還元する」と言葉巧みに金を集めた。電話や面談で「5割増しの還元は今だけ」「1・5倍になるのだから借金してでも支援したほうがいい」「バチカン市国からの資産引き出しは順調だ。まだ支援金を集めている」――などと何度も金を振り込ませたという。
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