新型コロナウイルスはこれからの世界経済にどんな影響を及ぼすのか。

「欧州最高の知性」と称されるジャック・アタリ氏は「過去の経済危機とは性質が全く異なる。少なくとも今後10年間、
われわれはこの危機の後始末に追われることになるかもしれない」という――。

新型コロナウイルス感染症による医療面の津波を押しとどめるための解決策は、われわれが知る通り、ワクチンと治療薬の開発だ。
その間、大規模な都市封鎖を避けるには、マスクの着用、検査の実施、感染経路の追跡調査、感染が疑われる者の隔離を行うことになる。

一方、経済危機という津波をどうやって押しとどめればよいのかは、よくわかっていない。
というのは、これは人類が自己決定により招いた危機であり、過去の経済危機とは性質がまったく異なるからだ。

つまり、これは金融経済ではなく実体経済の危機なのだ。その大きさは計り知れない。
いまだにほとんどの人がこの危機のあまりの深刻さと多面性について把握できていない。

今回、自分たちの想像を絶する未知の出来事に遭遇した政治指導者たちは、最初は概して現実を認めようとせず、
その後も事態の深刻さを否定した。そして、一切の物事を停止し、危機が自然に過ぎ去るのを待ちながら傍観した後、
元の状況に戻さなくてはと狼狽しているのだ。

このような態度では危機を乗り越えることはできないだろう。
この間、危機に見合った抜本的な改革を準備できないのなら、それは現実を一時停止させているに過ぎない。
ようするに、それは奈落の底に落ちる前の、ほんのひと時の安息でしかない。

事実関係のメカニズム、そして事実を客観的に示すあらゆるデータを把握することは骨の折れる作業だと思われるかもしれない。
だが、こうした作業は、われわれの元に訪れつつある課題の驚くべき大きさを理解するうえで欠かせない。

少なくとも今後10年間、われわれはこの危機の後始末に追われることになるかもしれない。
https://president.jp/articles/-/39986

ジャック・アタリ 経済学者
1943年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院(ENA)卒業、81年フランソワ・ミッテラン大統領顧問、91年欧州復興開発銀行の初代総裁などの、要職を歴任。
政治・経済・文化に精通することから、ソ連の崩壊、金融危機の勃発やテロの脅威などを予測し、2016年の米大統領選挙におけるトランプの勝利など的中させた。

林昌宏氏の翻訳で、「2030年ジャック・アタリの未来予測』(小社刊)、『新世界秩序』『21世紀の歴史』、『金融危機後の世界』、
『国家債務危機一ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?」、『危機とサバイバルー21世紀を生き抜くための(7つの原則)』(いずれも作品社)、
『アタリの文明論講義:未来は予測できるか」(筑摩書房)など、著書は多数ある。