一方、わが国の新型コロナウイルスワクチン接種の遅れは深刻だ。また、今までのところ、緊急事態宣言の発出などによる感染対策も期待したほどの効果を発揮できていない。海外からの来訪客(インバウンド)需要も蒸発している。それが、わが国経済の回復のペースを遅らせている。

コロナ感染克服に時間がかかればかかるほど、人々の動線の抑制や寸断が続き景気の回復は遅れる。それに伴い、経済が低迷すれば社会心理も悪化する。ワクチン接種の遅れは、わが国の経済と社会に大きく影響する。日経平均株価が軟調なのは、そうした展開を懸念する投資家が増えている証拠とも考えられる。

見方を変えれば、政府が取り組むべき政策ははっきりしている。菅政権は、何よりもワクチンの迅速な接種を実現して、コロナウイルス感染を抑え込む方策を実行に移すことが優先課題だ。それは、ワクチン接種の増加によって経済が正常化に向かう米国経済の状況を見ればよく分かる。

日本経済が低迷する3つの要因

1〜3月期、わが国の実質GDP(国内総生産)の速報値は、前期比年率で5.1%減少した。国内経済は低迷している。その背景にはいくつかの要因がある。

まず1つ目はワクチン接種が遅れていることだ。2月から、わが国では医療従事者への優先接種が始まった。4月以降は高齢者へのワクチン接種が開始された。7月末までに高齢者への接種を完了するのが政府の当初計画だった。

しかし、5月12日の総務省の発表によると、7月末時点で希望する高齢者への接種が完了すると報告した自治体は全体の85.6%だ。遅れの原因の一つは、現場の混乱だ。政府・自治体が“先着順”でワクチンの接種を進めた結果、われ先にワクチンを打とうとする人が殺到して電話回線やインターネット回線がつながらなくなった。また、ワクチンの廃棄、管理の指針も一貫していない。

それが接種の遅れの原因だ。5月20日時点で、ワクチンの接種が完了(2回接種)した人が人口に占める割合は、1.85%であり、主要先進国中最低だ。

緊急事態宣言が機能しづらくなっている

2つ目は、緊急事態宣言などの感染対策が、今のところ期待されたほどの効果を発揮していないことだ。足元で、緊急事態宣言が適用される都道府県は増えている。ワクチン接種が進まない中で、感染対策の効果が効きづらい状況が続けば、政府や各自治体は、より強い感染対策をとらざるを得ないだろう。
それは、わが国経済にとって追加的な下押し要因だ。その一方で、飲食業界では休業要請への反発が強まっている。社会心理が悪化し始めていることは軽視できない。

3つ目として、インバウンド需要(観光などのために海外からわが国を訪れる人)が蒸発した影響も大きい。特に、地方の温泉街などの観光地にとって、中国などからの観光客の増加は、地域産業の活性化に不可欠な要素だった。その蒸発は、わが国の所得・雇用環境に無視できない影響を与える。

これらの要因の中でも、ワクチン接種の遅れがわが国の株式市場に与えた影響は大きい。国内で高齢者へのワクチン接種が始まった4月12日から5月19日まで、日経平均株価は約5.8%下落した。接種の遅れを理由に、わが国経済の先行き懸念を強める投資家は増えている。

(略)
PRESIDENT Online2021/05/24 11:00
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