東北で特産の果樹や野菜の凍霜害(とうそうがい)が拡大している。開花期の4月の厳しい冷え込みで、宮城、山形、福島3県を中心に記録的な被害が判明。打撃は生産現場だけでなく、観光にも広がっており、関係者は危機感を募らせる。
 ナシの産地として知られる宮城県蔵王町、角田市とみやぎ仙南農協(柴田町)の関係者ら約20人が4日、県庁を訪れた。凍霜害に遭った実が入った袋を遠藤信哉副知事に手渡し、来年に向けた栽培管理に要した経費、防霜ファンの導入支援などを要望した。
 「平成以降で最悪の被害。大幅な減収は避けられない」。村上英人町長の訴えに、遠藤副知事は「皆さんが心を痛め、苦労していることを実感した」と応じ、支援策の検討を約束した。
 同農協梨部会の会員は約80人。県内のスーパーや東京、大阪の市場などに出荷し、年間取扱高は約2億3000万円に及ぶ。今春は例年より早く開花時期を迎えたが、4月に入り氷点下を記録。雌しべが枯死したり、実に傷が付いたりして、被害額は現時点で3億7000万円を超えた。
 県農業・園芸総合研究所によると、近年は温暖化で開花時期が早まる傾向がある。芽が膨らみ、花が咲くにつれて、「耐凍性」が弱くなるという。
 福島県は5月20日、凍霜害によるモモやカキ、アスパラガスなどの被害総額が26市町村で計27億6723万円と公表。1981年の71億5600万円に次ぐ規模で、県は農家の枝洗浄補助費など5億5800万円を予算措置した。
 福島大の高田大輔准教授(果樹園芸学)によると、凍霜害で果実に必要な養分が枝や葉に回り、予期せぬ成長で木の形が狂い、管理が行き届かない恐れがある。凍霜害を防ぐには周囲で火をたいて暖める方法などがあるが、生産現場の高齢化や人手不足で対応できないケースもあるという。
 高田准教授は「対策を個人に委ねる態勢では、一般的な障害にも対応できない場面が出てくるのではないか」と被害を防ぐ仕組みづくりの必要性を指摘する。
 生産量日本一を誇る山形県のサクランボ。南陽市には約20カ所の観光果樹園があるが、サクランボに凍霜害が広がり、団体客を受け入れられるのは一部の果樹園にとどまる見込みだ。
 市内では6月中旬から7月中旬にかけてサクランボ狩りのシーズンとなる。市商工観光課によると、2019年は約1万人が足を運んだが、20年は新型コロナウイルスの影響で約2000人に落ち込んだ。
 市内の観光関係者は「今年の入り込みは昨年以上に厳しいかもしれない」と肩を落とすが、「7月にはブドウ狩りが始まる。今のところブドウの出来は悪くないと聞いており、サクランボの分までおいしく味わってほしい」と期待した。

河北新報 2021年06月05日 06:00
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