藤田 紘一郎 : 東京医科歯科大学名誉教授


「血液型」というと、「性格判断」に結びつける人は多いでしょう。日本人は血液型による性格判断を好む人が多く、
「O型はおおらか」 「A型はまじめで几帳面」 「B型はマイペース」「AB型は変わり者」など、
まるで天気の話をするように、会話の中に血液型判断が出てきます。

ところが、多くの科学者や知識人は血液型判断に否定的です。「ABO式血液型による性格診断は、科学的に何も実証されていない。
血液型という生まれつきのもので人を判断するのは不当」と批判してきました。

しかし現在、血液型の科学的研究がまったく異なる視点から急速に進められています。
世界中で感染を広げ、変異株を次々に発生させている新型コロナウイルス。

その感染率や重症化率が、血液型で異なることがわかってきたのです。

たとえば、アメリカの消費者向け遺伝子検査会社の「23andMe」が75万人以上のビッグデータを解析した結果によれば、
O型の人は他の血液型より新型コロナに10〜20%感染しにくいと報告されています。

カナダで実施された調査では、新型コロナの重症患者95人の血液型を調べた結果、
A型とAB型の患者は84%が人工呼吸器を使ったのに対し、O型は61%だったと報告されました。

とくに注目したいのは、集中治療室に滞在した日数です。A型とAB型の患者は平均13.5日間だったのに対し、
O型の平均は9日間であり、4日間も短かったのです。

世界で権威ある週刊総合医学雑誌とされる『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)』の電子版
(2020年6月17)にも、血液型と感染率を遺伝子レベルで研究した論文が掲載されています。

新型コロナ感染・重症化と遺伝子との関係を調べたところ、O型の遺伝子を持つ人の重症化リスクは他の血液型より低く、
A型の人は重症化リスクが高くなる可能性が見られたとのことでした。

同様の報告は他にもされています。それらをまとめてみれば、「O型は他の血液型と比べて感染率も重症化率も低く、反対に、A型とAB型は高い傾向がある」とわかります。

なぜ、血液型によって違いが見られるのでしょうか。理由については、まだ明らかになっておらず、さらなる調査が待たれるところです。

1つ可能性として考えらえているのが、「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」という、人の体内にあるたんぱく質の関与です。
新型コロナは、ACE2という受容体を足がかりにして、人の細胞内に入り込み、増殖します。

新型コロナ感染で肺炎が起こりやすいのは、ACE2が肺の細胞に多くあるためです。
つまり、新型コロナとACE2が結合しなければ、感染は成立しないことになります。O型とB型の人は、「抗A抗体」というたんぱく質を血液中に持ちます。
この抗A抗体が、新型コロナとACE2の結合をある程度邪魔する働きがあるのではないか、とわかってきました。

もう1つ、O型の人の重症化率が低い理由として考えられるのは、O型は他の血液型より血栓(血の塊)ができにくいことです。
O型の人は「フォン・ヴィレブランド因子」が他の血液型より3割ほど少ないと知られています。

フォン・ヴィレブランド因子とは、血液を固めて止める血液凝固因子のこと。これが少ないということは、血栓(血の塊)が血液中にできにくいことを示します。
血栓は脳梗塞、心筋梗塞、肺塞栓などを引き起こします。

新型コロナ感染症では、これらの血栓症が起こる頻度が高くなっています。
O型は、フォン・ヴィレブランド因子が少ないことで、他の血液型よりも血栓症を起こしにくい。それがO型の重症化率をある程度抑えているのではないか、と考えられるのです。
https://toyokeizai.net/articles/-/453334

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