新型コロナワクチンの追加接種(ブースター接種)の是非をめぐる意見対立が激しくなる中、イスラエルの研究者は9月15日、
60歳以上に関してはファイザー製ワクチンの3回目接種で感染と重症化の両方を少なくとも12日間防ぐことができるという調査結果を発表した。

世界には未接種者がたくさんいるため、健康な成人にブースター接種を行うことについては厳しい異論が出ている。

ジョー・バイデン政権も広く一般にブースター接種を行う計画だったが、医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」で
発表された今回の研究で、ブースター接種をめぐる意見対立はさらに深まった。

これまでに累積されたデータを見る限り、ブースター接種が必要なのは高齢者だけで、高齢者ですらブースター接種は必要ないかもしれない、
と複数の独立した科学者は語った。

専門家によると、これまでに発表されたすべての研究において、ワクチンは重症化と入院の予防に関しては、今も圧倒的大多数の人々に対して高い有効性を維持している。
ただ感染の予防については、とくに感染力の強いデルタ株にさらされた場合には、すべての年齢層で効果が下がってきているように見えるという。

今回、イスラエルのデータで明らかになったのは、ブースター接種を行えば高齢者の予防効果を数週間引き上げられる可能性がある、ということだ。
専門家によれば、想定内の結果であり、ブースター接種の長期的なメリットが示されたわけではない。

シアトルにあるワシントン大学の免疫学者マリオン・ペッパー氏は「免疫反応はブースター接種で高まるだろうが、
その後、再び低下することが予想される」と話す。「しかし、3〜4カ月(の効果底上げ)というのは、私たちが目指しているものなのだろうか」。

バイデン大統領のパンデミック対策で首席医療顧問を務めるアンソニー・ファウチ氏をはじめとする連邦保健当局の高官は、
ワクチン接種の効果が時間の経過とともに低下することを示唆するイスラエルのデータなどを根拠に、ブースター接種計画を正当化してきた。

そのためアメリカ国民には、正式に認可される前から、ブースター接種を受けようと先を争う動きが一部で見られる。
しかしブースター接種計画に対しては、政府の科学者からも懐疑的な見方や怒りが向けられるようになっている。

アメリカ食品医薬品局(FDA)でワクチン部門を率いていた2人の科学者がこの秋に退任すると発表した理由の1つは、
連邦政府の研究者によるエビデンス(科学的証拠)の精査を待たずしてブースター接種を推し進めようとする政権への不満だという。

13日には、退任するFDA高官を含む国際的な科学者グループが、ブースター接種の推進を強く非難した。
同グループは医学誌「ランセット」で論文を発表し、数十の研究を分析した結果、ワクチンは数十億人の未接種者を守るのに使ったほうが世界のためになると結論づけた。

「今回のパンデミックにおける私たちの第1目標は、まず予防可能な死をすべて回避し、終わらせることにあった」と、
世界保健機関(WHO)のチーフサイエンティストで、ランセットの論文の共著者でもあるスミヤ・スワミナサン氏は述べた。

「私たちはそのための非常に効果的な手段を手にしているのだから、世界中で(予防可能な)死を防ぐのに使うべきだ」。

ウイルスがデルタ株よりもさらに危険な形態に変異し、免疫を完全に回避する変異株が出現するのを防ぐため、
ブースター接種よりも未接種者を減らすほうが課題としては緊急性が高いと専門家らは言う。

ブースター接種が科学的に難しい問題となっているのは、1つには「感染予防」と「重症化や死亡の予防」という目標の間に極めて大きな違いがあるためだ。

体内の最前線で感染を防ぐのが抗体だが、科学者によると、長期にわたる感染予防効果をワクチンで確実に得られる可能性は低い。
というのは、ワクチンが人体を刺激することで産生される抗体は時間の経過による減少が避けられないからだ。

ただしワクチンによって作られた細胞性免疫は、重症化や死亡を防ぐのに極めて強力な武器となる。
細胞性免疫に書き込まれた「免疫記憶」は、効果が表れるまでに数日を要するものの、しっかりとした効果が何カ月にもわたって維持される。

この点にこそブースター接種の問題がある、と一部の科学者は指摘する。入院や死亡を防ぐ道具なら、すでに手元にある。

しかし感染予防を目指すとなれば、その国はブースター接種の終わりなきサイクルから抜け出せなくなる。
https://toyokeizai.net/articles/-/457343