コロナじゃない「炭疽症だ」


2021年12月初旬にアメリカのダラスで開催された「リアウェイクン・アメリカ(ReAwaken America)」という極右の主要人物たちが集まるツアー・イベントの後、
複数人の参加者たちが咳、息切れ、発熱などの症状に見舞われた。

同ツアー・イベントの参加者は、反ワクチン、反マスクを主張する集団であることでも知られているが、
新型コロナウイルスの感染者数が再び増加傾向に転じていた同時期においても、参加者らはマスクをせずに集会を開いていた。

咳や鼻水、発熱といった症状、また、時期的にみても、新型コロナに感染した可能性が疑われたが、彼らは一貫してその可能性を否定し、
新型コロナではなく「炭疽(たんそ)にかかった」と主張している。

炭疽は炭疽菌がうつることによってかかる、動物由来の感染症だ。

米メディア「ヴァイス」によれば、最初に「炭疽だ」と言い出したのは、ジョー・オルトマンという極右のポットキャスターだった。
。彼は咳やくしゃみをしながら自身の番組の中で、イベントの後に体調不良になったことを明かし、他にも楽屋が一緒だった約12人が翌日に体調不良を訴えていたと語った。

そして、この症状の起因菌は「99.9%、炭疽菌だ」と主張。彼はそう語ることで、新型コロナウイルスに感染した可能性を否定したわけだが、
彼を含め、同ツアー・イベントに参加した約3500人の参加者の中で、炭疽菌中毒の検査で陽性を示した者は誰一人いないと、同メディアは述べている。

オルトマンのポッドキャストが放送された後、複数の極右メディアがこの「炭疽説」を取り上げた。

ちなみに炭疽は、炭疽にかかった動物や炭疽で死亡した動物に接触することなどによって人へと感染する病気で、人から人へ感染することはないと言われている。
そんな感染症が一体、なぜイベント参加者の間で広まったと言えるのか。

これについて、極右・陰謀論者らは、同イベントが「細菌兵器(生物兵器)の標的にされた可能性があるからだ」と主張する。
Qアノン・インフルエンサーの中にも、この主張を支持する者は多いようだ。

彼らの独自調査によれば、「イベント中に作動していたスモーク・マシン(舞台照明をより効果的に演出する為の煙や霧を発生させる機器)が怪しい」という。
何者かが「スモーク・マシンを使って、炭疽菌を蔓延させた可能性がある」との見解が展開されている。

しかし、この“可能性”を同ツアー・イベントの主催者は、「噂にすぎない」と真っ向から否定。
主催者のクレイ・クラークもまた極右に属する人物であるが、この「炭疽説」をめぐって同胞から「イルミナティ」呼ばわりされる騒動になっている。

クラークは極右のオンライン・トークショーに出演し、「僕はイルミナティの一員ではないし、疑惑をかけられているスモーク・マシンも、ただのスモーク・マシンにすぎない」と、語っている。

また、彼は米メディア「デイリー・ビースト」に対しても、「イベント開始前に、会場に麻薬や毒物などの危険物がないか、警察犬によってきちんと調べられている」と述べ、
なんらかの理由で会場に炭疽菌が蔓延した可能性を否定した。

ただし、彼はこのツアー・イベントで「細菌兵器の標的にされているかも」という陰謀論が浮上するのは茶飯事だとも語っている。
実際、これまでのツアー中にも何度かあったそうだ。「細菌兵器の標的にされた!」と主張する人が出てくること自体は、「僕にとっては、いつものことです」。

今のところ、同イベント後に体調不良になった参加者の中で、新型コロナへの感染を明らかにした者はいないと報じられている。
意地でも「新型コロナに感染した」とは認めない気配である。
https://courrier.jp/news/archives/273286/