>>774
――強気に出過ぎた、と?


中野 ええ。例えば、アメリカは、コソボやソマリアにおける紛争に対して、人道的介入を行いましたが、これは従来の国際秩序の基礎にあった主権国家という枠組みを踏み越えて、他国に介入するという野心的な試みでした。人道という普遍的な価値が、国家主権という規範の上位に立つ秩序の建設をアメリカはめざしたわけです。

 そして、決定的だったのはイラク戦争です。2001年に九・一一テロが勃発すると、当時のジョージ・ブッシュ政権は「テロとの戦い」を掲げて、イラク戦争へと突き進んでいきました。さらには、中東諸国の民主化を企てるという途方もないプロジェクトに乗り出したわけです。

 私は、2003年にイラク戦争が起こったときに、「これはまずい」と思いました。これで、アメリカの覇権国家としての寿命が縮まる、と。

 アメリカがフセインを叩き潰すのは簡単かもしれないけれど、フセインがいることでなんとか均衡状態を保っていた中東は混乱を極めて、泥沼状態になるに違いない。そうなれば、アメリカはもっとはやく疲弊していくことになる。当時、私はイギリスのエディンバラ大学に留学して、経済ナショナリズムの研究を深めていたこともあって、そう直観しました。

 ところが、その頃、日本では、大多数の識者が「日米同盟が大事だから、イラク戦争賛成」などと言ってましたが、「バカな……」と思いました。アメリカの覇権が衰えれば、アメリカの一極体制で最も恩恵を受けていた日本が最もまずいことになります。本当はあのとき、日本は「日米同盟が大事だから、イラク戦争反対」と主張すべきだったんです。