>>778
――中野さんがおっしゃるように、現在、中東は混迷の度合いを深めるばかりですね。

中野 ええ。中東は、イラク戦争や「アラブの春」によって勢力均衡が崩れ、サウジアラビアとイランが地域覇権を争うようになり、シリアの内戦は、サウジアラビアとイランの覇権戦争の代理戦争と化して泥沼化していったわけです。

 しかも、イランの核開発問題、エジプトやトルコの政情不安、イスラエル・パレスチナ問題など、放置していては危険な課題が山積しています。その結果、オバマ政権はイラクから撤兵するとともに、経済成長著しい東アジアに世界戦略の軸足を移そうとしましたが、中東にも国力を振り向け続けざるを得なくなったんです。

――つまり、東アジアと中東に国力を分散させることで、アメリカの疲弊が進むと? 

中野 そういう状況を自ら招いたわけです。

 そして、アメリカの戦略ミスで最も象徴的なのはウクライナ問題です。ブレジンスキーは、NATOの東方拡大によって、ウクライナまでをアメリカの勢力圏に収めることを目論みました。さらに、ロシアを西洋化し、無害化すればよい、とまで言ったんです。

 その結果、どうなったか? 2014年に、ウクライナにおいて親ロシア政権に対する親ヨーロッパ派による政変が勃発した際、NATOの東方拡大を目論むアメリカは親ヨーロッパ派に加担しましたが、これに反発したロシアは、ウクライナに侵攻してクリミアを奪取しました。

 もちろんロシアの行為は、ウクライナに対する事実上の侵略であり、アメリカやNATOが強く非難したように、国際法違反の疑いが濃厚ではあります。しかし、そんなことは、プーチンは百も承知のうえで行動に移したわけです。

 もともとロシアは、NATOの東方拡大については、苦々しく思いつつも、ポーランドやバルト三国あたりまでは許容していました。しかし、ウクライナはロシアにとって黒海への玄関口にあたる安全保障上の要衝中の要衝です。ここを取られると、ナイフを喉元に突きつけられることになる。それを阻止しようとするのは、主権国家として当然のことでしょう。ロシアのウクライナ侵攻を誘発したのは、明らかにアメリカの攻撃的な東方拡大戦略だったのです。