貧困をなくす視点、気候変動対策で重視を 配慮なき脱炭素化が問題悪化を招く懸念

 地球温暖化は既に厳しい暑さを招いている。大雨被害の深刻化も指摘されている。温暖化の「損失と被害」への対応策は、エジプトで開催中の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)のテーマの一つだ。災害への備えが弱く、被害が大きくなりやすい発展途上国への支援などが議論されている。
 ただ、被害を受けやすい人らは先進国にもいる。貧困に苦しむ人らだ。米ニューヨークの2021年9月の豪雨では、死者の多くが家賃が安い地下室の住人たちだった。富裕層ほど温暖化の原因となる温室効果ガスを多く出し、貧困層ほど温暖化の被害が深刻化する構図は、先進国と途上国の格差に重なる。
 国連防災機関の水鳥真美代表は取材に「困窮対策は経済対策であるのみならず、防災対策でもある」と語った。

◆「エネルギー貧困」への配慮がないと
 ロシア軍のウクライナ侵攻をきっかけとした電気代の値上がりも問題に拍車をかけた。東京などで記録的に早い猛暑となった22年6月、日本救急医学会は緊急に開いた記者会見で、エアコンが使えないような経済的な困窮者も「熱中症弱者だ」と訴えた。熱中症は、涼むなどの適切な対策がとれずに重症化すれば、死に至る恐れがある。
 冷暖房などの基本的エネルギーニーズを満たせない状態は「エネルギー貧困」と呼ばれる。日本で、その研究を続けてきた筑波大の奥島真一郎准教授は、エネルギー貧困の人らに配慮しないままの温室効果ガス削減策によって問題が悪化することを心配する。
 お金に余裕があれば、少ない冷暖房で快適に過ごせる省エネ性能の高い住宅を買うことや、自宅への太陽光発電や蓄電池の設置によって、電力会社から買う電気を減らす対策を選べる。燃料価格の高騰による電気代の値上がりの影響も災害時の停電の影響も小さくできる選択だ。脱炭素化の政策でそれぞれに補助金が付けば、恩恵は大きい。
 しかし貧困層は、そもそも自宅の購入などが難しく、補助金の恩恵も受けにくい。一方、温室効果ガスの排出量に応じた課税などで火力発電所由来の電気代が値上がりした時の悪影響は避けづらい。
◆「%を下げればいいという話ではない」
 奥島准教授は、質の悪い家が残り、高齢者の年金は減るなどして「問題は構造的に深刻になっている」とし、「脱炭素政策は温室効果ガス排出の%を単に下げればいいという話ではない。エネルギー弱者に配慮し、誰ひとり取り残さない包摂的な脱炭素化政策が求められている」と語る。
 温暖化対策は経済面だけでなく、国内外の格差是正や福祉の観点も重視すべきだ。行政が、省エネ性能の高い低所得者向け住宅を積極的に整備すれば、困窮者の助けになる。奥島准教授によると、海外では、地域の再生可能エネルギーの電力を一部、低所得者に割り当てようとする政策もある。
 困窮者の痛みに先手で対策を打つことは、スムーズな脱炭素化にもつながるはずだ。貧困や格差をなくしていく視点を常に意識していたい。(デジタル編集部・福岡範行)

東京新聞 2022年11月12日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/213430