フィリピンから7日に強制送還され、警視庁に窃盗容疑で逮捕された今村磨人きよと容疑者(38)ら男4人は、交流サイト(SNS)を通じて日本から呼び寄せた「闇バイト」の若者たちを使って60億円規模のニセ電話詐欺を働いていたとされる。元メンバーは、今村容疑者ら幹部が「かけ子」らに恐怖心を植え付けて支配していたと証言。一連の広域強盗事件で「ルフィ」と名乗っていた指示役の人物像と重なる。 (井上真典)
 「今村(容疑者)は金に対して貪欲。詐欺でもタタキ(強盗の隠語)でも、もうかればどっちでもいいのだろう」。匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」で今村容疑者と最近までやりとりしていた知人は冷ややかに語る。

 4人は、フィリピンの入管施設から強盗の実行役に指示していた疑いがある。今村容疑者は知人にもテレグラムで「ルフィ」と名乗っていたという。逮捕容疑は今からさかのぼること3年以上、2019年のニセ電話詐欺だ。
 8日に強制送還が見込まれる渡辺優樹容疑者(38)を頂点に、フィリピンの廃ホテルからニセ電話詐欺を仕掛けていたグループ。元メンバーの男(42)=窃盗罪で実刑判決=は収監前の拘置所で取材に応じ「ボスの渡辺(容疑者)が同郷の今村(容疑者)ら幹部とともに、組織的にグループを運営していた」と明かした。

 現地のメンバーは多いときで100人。闇バイトに応じた若者らが、かけ子として日本の高齢者らに「あなたの口座が不正利用されている」と電話。日本にいる「受け子」に高齢者宅へキャッシュカードを取りに行かせ、偽物とすり替えて現金を引き出していたとされる。
 複数の関係者によると、かけ子は複数のグループに分かれており、そのうち一つのグループのまとめ役が今村容疑者だった。一緒に逮捕された藤田聖也としや容疑者(38)は闇バイトの募集や採用のリクルーターで、8日に送還見込みの小島智信容疑者(45)は「エイト」の名前で詐取金の管理を担っていた。
 グループで「受け子」をしていた男(36)は19年、幹部の1人から「1年くらいで帰っていいから、フィリピンに来いよ」とかけ子に誘われ、難色を示すと「組織を裏切ったらただじゃおかない。警察にばらす」と脅されたという。
 男は闇バイトに応募した際に身分証を送っていたといい、「逃げられないと感じた」と振り返る。結局、かけ子としてフィリピンに渡った。

 グループの規律は厳しく、かけ子の背後には常に監視役がいたという。あるメンバーが何人か引き抜いて独立しようと試みた際は、幹部らが屋上に連れて行き、「見せしめのためにボコボコにした」という。
 男は強制送還後、窃盗罪で実刑判決を受けた。収監前の拘置所で「気軽に闇バイトに手を出してしまった。こんなことになるとは想像していなかった」と悔いていた。

東京新聞 2023年2月8日 06時00分
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