クマの餌となるブナが不作となりそうな今秋は、特に山あいの地域で警戒が欠かせない。山形県白鷹町山口の70歳代男性は8月13日の昼下がり、クマに襲われた当時の恐怖を取材に語った。

 「ハァハァ」

 自宅裏の柿の木の下に生ゴミを捨てた帰り際、突然、背後から荒い息づかいが聞こえた。

 暑さのため、上半身裸だった男性が振り返ると、真後ろに体長約1メートルのクマ1頭がいた。立ち上がったクマに、右のこめかみと耳のあたりを爪で引っかかれた。クマは一度は体勢を崩したが、再び立ち上がって襲いかかってきた。

 「この状況じゃ、逃げられない」。男性はクマの両腕を自身の左腕で受け止め、首の下あたりを右拳で何度も必死に殴った。驚いたクマは柿の木の背後にある竹林へ走り去った。

 ホッとして下を向くと、顔からぼたぼたと血が垂れた。左腕や胸にも引っかき傷があり、自ら119番した。傷は深くなかったが、腫れたため、3日間入院した。

 男性の自宅周辺にはモモやリンゴの木があり、しばしばクマのものとみられる足跡があった。家庭菜園をしている畑には鳥獣対策の電気柵を設置していたが、当時、漏電で電圧が下がっていたという。男性は「まさか自宅でクマに遭うなんて思わなかった。今でも、口を半開きにして襲いかかってきたクマの顔をはっきりと覚えている」と、こわばった表情で語った。

読売新聞 2023/10/11 14:43
https://www.yomiuri.co.jp/national/20231011-OYT1T50135/
https://www.yomiuri.co.jp//media//2023//10//20231011-OYT1I50080-T.jpg