身寄りがない患者への対応について、一般社団法人「東京都医療ソーシャルワーカー(SW)協会」が、都内の病院や介護事業所に勤めるSWらにアンケートしたところ、9割超が、家族や親族による「身元保証」がない人は入院や転院、施設入所が「制約されている」と答えた。医療費が支払われないことへの懸念が背景にあり、協会は自治体による支援を求めている。

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 協会によると、身寄りがない患者が増加したことで、従来は家族や親族が担ってきた金銭管理や手続き、死後の対応などをできる人がおらず、SWらが困るケースが増えている。実態把握のため、2022年11〜12月、協会会員や都内の病院、介護施設に勤めるSWやケアマネジャーらを対象に調査を実施。計366人から回答を得た。勤め先ごとにみると、都内の病院(当時627)の約4割から回答があったという。

 調査結果によると、2021年4月からの1年間で、回答者がかかわった身元保証がない人の数は、「1〜10人」が最も多く(233人)、ついで「11〜29人」(57人)。「いなかった」が55人いた一方で、「30〜50人」は16人、「51人以上」も5人いた。

 入院や入所の希望者に身元を保証する人がいない場合、70%は身寄りがないまま入院や入所を「可能としている」と答えたが、24%は「断っている」。6%は「民間の保証会社などを紹介している」だった。

 厚生労働省は、身元保証人がいないことのみを理由に入院や入所を拒むことがないよう病院や介護施設などに求めている。

 ただし、現実には、患者に意識がなかったり、キャッシュカードの暗証番号がわからなくなったりすると、預貯金があっても誰も動かせず、医療費や、おむつなど日用品の支払いにもあてられない。症状が落ち着いてほかの病院や施設に移ってもらおうにも、医療費などが支払われないことを懸念して受け入れを断られるケースも多いという。

 今回の調査で「断っている」と答えた人に理由を尋ねたところ、「(医療費などの)支払いや金銭管理が難しい」「医療行為への承諾や意思確認が難しい」「入退院時の手続き代行が必要」「退所先の確保や(次の)入院支援などが難しい」などをあげる人が多かった。

 一方、入院や入所が「可能」と答えた人に、その後の対応で困ることを尋ねると、「支払いや金銭管理が難しい」のほか、「退所先の確保や(次の)入院支援などが難しい」「病院・施設・事業所・担当者の負担が大きい」などが多かった。

 調査を担当した一人で、都内の病院に勤めるSWの藤井かおるさんは、「特に救急患者を受け入れる病院では、患者の治療同意や意思決定について話し合う、身寄りのない患者さんの家族を捜す、お金の出どころを探すという仕事が大きな割合を占めるようになっており、現場の負担が増している」と言う。

 調査では、行政からの支援についても尋ねた。「大いにある」が4%、「少しある」が45%。これに対し、「ほとんどない」が29%、「まったくない」も9%いた。

 現状、病院側が、身寄りがない入院患者に対し、財産管理や手続きなどを支援する成年後見人をつけようとしても、決定までに数カ月かかる。決まるまでに亡くなった場合、医療費が未収になる恐れもある。また、自治体と連携しようとしても、医療介護や成年後見、死後の対応などで担当部署が異なり、たらい回しになるケースも少なくないという。

 同協会の平田和広会長は、「身寄りのない人は今後さらに増えることが予想される。成年後見人が決まるまでの間、一時的に入院費などの支払いを支援して後から回収できる仕組みや、自治体に相談できるワンストップの窓口の設置を検討してほしい」と話す。(土肥修一)

朝日新聞 2024年3月10日 16時00分
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