■内核の「スーパーローテーション」、旧ソ連の核実験データから解明
1971年9月27日、北極海にある現ロシア領ノヴァヤゼムリャ島で核実験が行われた。激しい振動は地球の奥深くへ伝播し、内核(内部コア)で跳ね返ると、島から6500キロ離れた米モンタナ州の地震計に達した。さらに3年後、ほぼ同じ場所で2回目の核実験が実施され、やはりモンタナ州の地震計が信号をキャッチした。
冷戦時代、東西の緊張が高まるなか何度となく繰り返された核実験。それによって生じた地震波の記録は現在、地質学者に極めて有益な情報をもたらしている。地球内核の回転速度が、核実験の記録からわかるというのだ。
■金属の海に浮かぶ「鉄の塊」
地球は、地軸を中心にして24時間で一周する(自転する)のはよく知られている。地球の中心には、月とほぼ同じ大きさの内核がある。内核は鉄の塊で、それを取り巻く外核はドロドロに溶けた液体金属でできている。つまり、金属の海のなかに浮いている状態の内核は、外核の外側にあるマントルや地殻とは異なる速度で回転していたとしても不思議ではない。これを、「スーパーローテーション」と呼ぶ。では、どれほどの速さで回転しているのか。この点は、長い間専門家の間で議論されてきた。
米国、南カリフォルニア大学の地震学者ジョン・ヴィデール氏は、数十年前の核実験で発生した地震波の記録から、内核は地球の表面よりもわずかに速く回転していると結論付けた。この研究は、8月15日付けの学術誌「Geophysical Research Letters」に発表された。ヴィデール氏の数字が正しければ、赤道に立った時にその足の真下にあった内核の部分は、1年後には7.7キロ先の真下に移動していることになる。
最新論文を「丁寧で優れた研究」と評価するのは、米コロンビア大学の地震学者で、1996年に初めて内核のスーパーローテーションに関する論文を共同執筆したポール・リチャーズ氏だ。「地球の内部で何らかの変化が起こっています」と語る。
鉄の塊である内核の動きが解明されれば、地球の磁場についてもより理解が深まる可能性がある。磁場は、有害な宇宙の放射線からこの世界を守っているが、その発生には地下深くにある内核の動きが大きく関わっていると、専門家はみている。
「地球は究極の天然実験場です」と、英国にあるインペリアル・カレッジ・ロンドンの地球深部地震学者エリザベス・デイ氏は言う。地下数千キロの超高圧で超高熱の環境を「実際の研究室で再現するのは困難です。でも、地球内部をのぞき込むことができれば、いかに激しい環境なのか少しは理解できるかもしれません」。なお、デイ氏は今回の研究には参加していない。
内核のスーパーローテーションに関しては過去に数多くの研究がなされたが、最新論文がはじき出した回転速度は、それらと比べてかなり遅い。研究が出るたびに速度が変わるのは、必ずしも悪いことではないと、デイ氏は言う。
「誰かが間違っているわけではありません。誰もが、少しだけ違うものを見ているということです」
https://cdn-natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/090400514/ph_thumb.jpg
ナショナルジオグラフィック日本版サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/090400514/
1971年9月27日、北極海にある現ロシア領ノヴァヤゼムリャ島で核実験が行われた。激しい振動は地球の奥深くへ伝播し、内核(内部コア)で跳ね返ると、島から6500キロ離れた米モンタナ州の地震計に達した。さらに3年後、ほぼ同じ場所で2回目の核実験が実施され、やはりモンタナ州の地震計が信号をキャッチした。
冷戦時代、東西の緊張が高まるなか何度となく繰り返された核実験。それによって生じた地震波の記録は現在、地質学者に極めて有益な情報をもたらしている。地球内核の回転速度が、核実験の記録からわかるというのだ。
■金属の海に浮かぶ「鉄の塊」
地球は、地軸を中心にして24時間で一周する(自転する)のはよく知られている。地球の中心には、月とほぼ同じ大きさの内核がある。内核は鉄の塊で、それを取り巻く外核はドロドロに溶けた液体金属でできている。つまり、金属の海のなかに浮いている状態の内核は、外核の外側にあるマントルや地殻とは異なる速度で回転していたとしても不思議ではない。これを、「スーパーローテーション」と呼ぶ。では、どれほどの速さで回転しているのか。この点は、長い間専門家の間で議論されてきた。
米国、南カリフォルニア大学の地震学者ジョン・ヴィデール氏は、数十年前の核実験で発生した地震波の記録から、内核は地球の表面よりもわずかに速く回転していると結論付けた。この研究は、8月15日付けの学術誌「Geophysical Research Letters」に発表された。ヴィデール氏の数字が正しければ、赤道に立った時にその足の真下にあった内核の部分は、1年後には7.7キロ先の真下に移動していることになる。
最新論文を「丁寧で優れた研究」と評価するのは、米コロンビア大学の地震学者で、1996年に初めて内核のスーパーローテーションに関する論文を共同執筆したポール・リチャーズ氏だ。「地球の内部で何らかの変化が起こっています」と語る。
鉄の塊である内核の動きが解明されれば、地球の磁場についてもより理解が深まる可能性がある。磁場は、有害な宇宙の放射線からこの世界を守っているが、その発生には地下深くにある内核の動きが大きく関わっていると、専門家はみている。
「地球は究極の天然実験場です」と、英国にあるインペリアル・カレッジ・ロンドンの地球深部地震学者エリザベス・デイ氏は言う。地下数千キロの超高圧で超高熱の環境を「実際の研究室で再現するのは困難です。でも、地球内部をのぞき込むことができれば、いかに激しい環境なのか少しは理解できるかもしれません」。なお、デイ氏は今回の研究には参加していない。
内核のスーパーローテーションに関しては過去に数多くの研究がなされたが、最新論文がはじき出した回転速度は、それらと比べてかなり遅い。研究が出るたびに速度が変わるのは、必ずしも悪いことではないと、デイ氏は言う。
「誰かが間違っているわけではありません。誰もが、少しだけ違うものを見ているということです」
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