日本酒を製造する現場にいるのはほとんど男性──そんなイメージを持っている人は多いかもしれない。しかし歴史を紐といてみると、実は女性こそ日本酒と長く深い関係にあった。彼女たちが酒の世界から追い出されてしまったのは、ここ100年ほどの話なのだという。
◾日本酒の世界を占める男性たち
※省略
日本には酒造免許を持つ蔵が約1500軒あるが、女性が経営するものは50軒にも満たない。その背景には日本のみならず、世界の女性たちが職場で直面するさまざまな「困難」が関わっているだろう。だが、米を原料とした日本酒の製造と消費における「特有の文化的タブー」に起因する部分もある。
「日本文化において、女性は穢れた存在とされています。それが、女性が酒造りに参加できずにいる大きな理由です」とサミュエルズは続ける。
だがその昔、女性は酒造りに欠かせない存在だった。日本酒に関する伝説や歴史的文献を紐といても、その中心には女性がいる。
かつて酒を作っていたのは、神社に仕える巫女だった。
時が経つにつれて彼女たちは家業として酒造りをおこなうようになり、近代以前の村々では、酒を売り歩いて生活していたという。「酒造りに女性が参加することはタブーである」──という考えは古くから根付いている伝統的な思想ではない。日本が猛烈な勢いで近代化をはじめた1868年以来、急速に広まった考え方なのだ。
◾女神と口噛み酒
日本酒業界で名を成す女性は増えている。今田、藤田、新川ヘルトンも頭角を現し、革命を起こした。しかしこの「革命」は、日本酒のルーツへの回帰でもあった。
伝説によれば、女神が米を噛み、瓶に吐き出したことが日本酒のはじまりだったという。
唾液に含まれる酵素はデンプンを分解すると、ただの穀物だった米を発酵させ、発泡性の酵母で泡立つ液体が生まれた。それは女神の信奉者を恍惚とさせるに充分なアルコール分を含む酒となった──イェール大学で教鞭をとる前近代日本史学者ポーラ・R・カーティスによると、これが日本酒の起源とされる話のひとつだ。
神によって生み出されたとされる飲み物の「誕生秘話」において、事実と伝説を線引きすることは難しい。しかし、女性が酒造りに参加していたことを示す最古の記録を紐とくと、6世紀まで遡ることができる。
これを踏まえ、神社に仕える女性たちが米を噛み、吐き出すことで儀式用の日本酒を醸造していたのではないかと推測されているのだ。また、酒造りの長を指す「杜氏」という単語もこの起源にちなむものとみられる。これは独立した女性、または家を取り仕切る女性を指す「主婦」を意味するのだ。
8世紀になり、女性と酒は行政や文学に登場する。
農業経済における「日本酒の醸造」と「金貸し」は、女性がおこなっていたという。中世後期に入ると、酒を醸造する女性たちは「権力者につきものの伝統」である脱税をおこなうほど目立つ存在となっていた。「酒醸造に関わる男女で税法に従わぬ者には罰則を科す、と記した税務文書や法的文書が残っています」と前出のカーティスは言う。
当時の文書によれば、女性杜氏は派手で威勢が良く、仕事一筋だったようだ。
1500年頃に公卿がさまざまな「平民」の職人に事寄せ詠んだ一連の歌合『七十一番職人歌合』の一首では、鍋の行商をする鍋売りに対し、女杜氏が「酒を買うのが先だよ!」と割り込んでいる。
◾酒の世界から追い出され…
そんな女性たちがなぜ、醸造所から追い出されたのだろうか?
社会的、文化的変化の多くがそうであるように、これには入り組んだ事情がある。「近代化」とは通常、長年の抑圧から女性を開放するものと信じられているだろう。多くの場合、その通りだ。
だが、1603年にはじまった日本の「近世」にあたる江戸時代は違った。月経があるから女性は本質的に「穢れ」であり、そういった理由から「神聖な儀式を汚す存在」として扱われることが増えた、というのが一部の歴史家の主張だ。「女が醸造所に足を踏み入れると酒がダメになる」という考えが広まったのもこの頃だろうとカーティスは考える。
1868年に明治維新を迎えると、日本経済は村単位の社会的義務で繋がった家族経営の商売から、より現代的な金融経済へと変わった。この変化によって女性の居場所はさらに奪われる。家族経営の中心にいた彼女たちは、外のビジネスにおける経済分野からは分離された家庭内のスペースを占めるようになったのだ。(続きはソース)
1/29(水) 8:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200129-00000002-courrier-cul
https://lpt.c.yimg.jp/amd/20200129-00000002-courrier-002-view.jpg
◾日本酒の世界を占める男性たち
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日本には酒造免許を持つ蔵が約1500軒あるが、女性が経営するものは50軒にも満たない。その背景には日本のみならず、世界の女性たちが職場で直面するさまざまな「困難」が関わっているだろう。だが、米を原料とした日本酒の製造と消費における「特有の文化的タブー」に起因する部分もある。
「日本文化において、女性は穢れた存在とされています。それが、女性が酒造りに参加できずにいる大きな理由です」とサミュエルズは続ける。
だがその昔、女性は酒造りに欠かせない存在だった。日本酒に関する伝説や歴史的文献を紐といても、その中心には女性がいる。
かつて酒を作っていたのは、神社に仕える巫女だった。
時が経つにつれて彼女たちは家業として酒造りをおこなうようになり、近代以前の村々では、酒を売り歩いて生活していたという。「酒造りに女性が参加することはタブーである」──という考えは古くから根付いている伝統的な思想ではない。日本が猛烈な勢いで近代化をはじめた1868年以来、急速に広まった考え方なのだ。
◾女神と口噛み酒
日本酒業界で名を成す女性は増えている。今田、藤田、新川ヘルトンも頭角を現し、革命を起こした。しかしこの「革命」は、日本酒のルーツへの回帰でもあった。
伝説によれば、女神が米を噛み、瓶に吐き出したことが日本酒のはじまりだったという。
唾液に含まれる酵素はデンプンを分解すると、ただの穀物だった米を発酵させ、発泡性の酵母で泡立つ液体が生まれた。それは女神の信奉者を恍惚とさせるに充分なアルコール分を含む酒となった──イェール大学で教鞭をとる前近代日本史学者ポーラ・R・カーティスによると、これが日本酒の起源とされる話のひとつだ。
神によって生み出されたとされる飲み物の「誕生秘話」において、事実と伝説を線引きすることは難しい。しかし、女性が酒造りに参加していたことを示す最古の記録を紐とくと、6世紀まで遡ることができる。
これを踏まえ、神社に仕える女性たちが米を噛み、吐き出すことで儀式用の日本酒を醸造していたのではないかと推測されているのだ。また、酒造りの長を指す「杜氏」という単語もこの起源にちなむものとみられる。これは独立した女性、または家を取り仕切る女性を指す「主婦」を意味するのだ。
8世紀になり、女性と酒は行政や文学に登場する。
農業経済における「日本酒の醸造」と「金貸し」は、女性がおこなっていたという。中世後期に入ると、酒を醸造する女性たちは「権力者につきものの伝統」である脱税をおこなうほど目立つ存在となっていた。「酒醸造に関わる男女で税法に従わぬ者には罰則を科す、と記した税務文書や法的文書が残っています」と前出のカーティスは言う。
当時の文書によれば、女性杜氏は派手で威勢が良く、仕事一筋だったようだ。
1500年頃に公卿がさまざまな「平民」の職人に事寄せ詠んだ一連の歌合『七十一番職人歌合』の一首では、鍋の行商をする鍋売りに対し、女杜氏が「酒を買うのが先だよ!」と割り込んでいる。
◾酒の世界から追い出され…
そんな女性たちがなぜ、醸造所から追い出されたのだろうか?
社会的、文化的変化の多くがそうであるように、これには入り組んだ事情がある。「近代化」とは通常、長年の抑圧から女性を開放するものと信じられているだろう。多くの場合、その通りだ。
だが、1603年にはじまった日本の「近世」にあたる江戸時代は違った。月経があるから女性は本質的に「穢れ」であり、そういった理由から「神聖な儀式を汚す存在」として扱われることが増えた、というのが一部の歴史家の主張だ。「女が醸造所に足を踏み入れると酒がダメになる」という考えが広まったのもこの頃だろうとカーティスは考える。
1868年に明治維新を迎えると、日本経済は村単位の社会的義務で繋がった家族経営の商売から、より現代的な金融経済へと変わった。この変化によって女性の居場所はさらに奪われる。家族経営の中心にいた彼女たちは、外のビジネスにおける経済分野からは分離された家庭内のスペースを占めるようになったのだ。(続きはソース)
1/29(水) 8:00配信
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200129-00000002-courrier-cul
https://lpt.c.yimg.jp/amd/20200129-00000002-courrier-002-view.jpg