(抜粋)
中学生時代に教員からの性暴力被害に遭い、20年以上の歳月を経てようやく被害と向き合えるようになった女性がいる。
東京都に住む石田郁子さん(42)。「これ以上、新たな被害者を生みたくない」と、実名での被害告白や教育現場での性暴力被害の実態調査に取り組んでいる。
国は今後3年間で性犯罪・性暴力対策を強化する方針を打ち出すが、石田さんは「教育現場での性暴力被害について国はもっと危機感を持ってほしい」と訴える。
石田さんの苦悩の始まりは約30年前にさかのぼる。当時通っていた札幌市の中学校の卒業式の前日、男性教員に突然キスをされた。
何が起こったのか分からず、頭が真っ白になった。その後も教員の自宅や屋外で上半身を裸にされたり、性的行為を強要されたりするなどの性暴力が大学2年の19歳まで続いた。
年齢を重ねて認識能力が上がり、当時の状況に向き合えるようになって初めて被害に気づくことができた。
「正しい大人の見本でもある『先生』という存在を疑う発想が持てなかった」「心の奥では最大限怖いと思っていたのだと思う。
電力量がピークになるとブレーカーが落ちるのと同じで、性暴力に遭うと逆に静かで何も感じないようになってしまう」。当時をこう振り返る。
ふたをし続けたつらい出来事に向き合う過程で、2016年にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した。
それでも「黙って見過ごせない」と心を奮い立たせ、同年、札幌市教育委員会に調査を求め、男性教員の処分を訴えた。
しかし、教員は一貫して行為を否認。処分はなく、今も教壇に立ち続けているという。警察への告訴を考えたが公訴時効の壁が立ちはだかった。罪に問えるのは強制性交等罪が10年、強制わいせつ罪が7年だからだ。
19年2月、性被害でPTSDを発症したとして、札幌市教委と教員を相手取り、約3000万円の損害賠償を求め、実名を公表して東京地裁に提訴した。
しかし同年8月、不法行為から20年が過ぎているとして、損害賠償請求権を失う「除斥期間」に相当すると判断されて敗訴。「わいせつ行為があったかどうかを全く審理していない」として現在控訴中だ。
石田さんは、教員による性暴力の実態を調べるため5月11〜31日、ウェブ上でアンケートを実施。
回答者は女性約8割、男性約2割で、有効回答717人のうち在学中や卒業後に教員から「性的な経験、性暴力被害にあった」と回答した人は42・4%に上った。
複数回答で内容を聞いたところ、「体を触られる、触らせられる」29・2%、「性的な行為をされる、させられる」7・7%だった。
回答を分析した石田さんは「生徒の身体の成長について指摘したり、授業内の指導の補助などで体を触ったりするなど、生徒にとっては違和感があっても指摘することも容易ではないと思われる。
レイプ被害の記述もあり驚かされる」と話す。
わいせつ処分、18年度過去最多
文部科学省によると、2018年度に児童生徒へのわいせつ・セクハラ行為などを理由に処分を受けた公立学校(小中高校など)の教職員は282人で過去最多を更新。
初めて200人を超えた13年度(205人)以降、14年度205人▽15年度224人▽16年度226人▽17年度210人――と200人台で推移する。全教職員に占める処分者の割合は各年度で0・02〜0・03%だった。
性被害に詳しい上谷さくら弁護士によると、加害者となる教員には「俺は頑張っているから何をしても許される」「みんな俺のことが好きなんだ」などと認知のゆがみが生じている場合が多く、子どもへのわいせつ行為を正当化する傾向が強いという。
被害防止のためには「自分以外の人が勝手に体を触ってはいけないことや、それなのに触ってくるような怖い大人がいることを伝える性教育が欠かせない」と指摘する。
上谷弁護士は「教員になる人は真面目な人が多いので、原則懲戒免職というのはインパクトが強くて抑止力になるのではないか」と評価。幼児期からの教育についても「性暴力撲滅には最も大事なこと」と実現に期待を寄せる。
一方、わいせつ教員の処分数は氷山の一角との指摘もある。教員による子どもへの性暴力の調査は、教育委員会が主体になるからだ。
上谷弁護士は「加害教員が行為を否定したら、処罰されないケースもある。加害教員と被害児童生徒を同じクラスにしない程度の配慮しかせず、不登校になる子どもも多い」と指摘。
そのうえで、性暴力を調査する第三者機関創設の必要性を強調し、「学校がすべて対応するのではなく、学校内の問題をきちんと調査して解決する独立機関の設置が被害者救済につながる」と話す。
(全文)
https://mainichi.jp/articles/20200723/k00/00m/040/142000c
中学生時代に教員からの性暴力被害に遭い、20年以上の歳月を経てようやく被害と向き合えるようになった女性がいる。
東京都に住む石田郁子さん(42)。「これ以上、新たな被害者を生みたくない」と、実名での被害告白や教育現場での性暴力被害の実態調査に取り組んでいる。
国は今後3年間で性犯罪・性暴力対策を強化する方針を打ち出すが、石田さんは「教育現場での性暴力被害について国はもっと危機感を持ってほしい」と訴える。
石田さんの苦悩の始まりは約30年前にさかのぼる。当時通っていた札幌市の中学校の卒業式の前日、男性教員に突然キスをされた。
何が起こったのか分からず、頭が真っ白になった。その後も教員の自宅や屋外で上半身を裸にされたり、性的行為を強要されたりするなどの性暴力が大学2年の19歳まで続いた。
年齢を重ねて認識能力が上がり、当時の状況に向き合えるようになって初めて被害に気づくことができた。
「正しい大人の見本でもある『先生』という存在を疑う発想が持てなかった」「心の奥では最大限怖いと思っていたのだと思う。
電力量がピークになるとブレーカーが落ちるのと同じで、性暴力に遭うと逆に静かで何も感じないようになってしまう」。当時をこう振り返る。
ふたをし続けたつらい出来事に向き合う過程で、2016年にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した。
それでも「黙って見過ごせない」と心を奮い立たせ、同年、札幌市教育委員会に調査を求め、男性教員の処分を訴えた。
しかし、教員は一貫して行為を否認。処分はなく、今も教壇に立ち続けているという。警察への告訴を考えたが公訴時効の壁が立ちはだかった。罪に問えるのは強制性交等罪が10年、強制わいせつ罪が7年だからだ。
19年2月、性被害でPTSDを発症したとして、札幌市教委と教員を相手取り、約3000万円の損害賠償を求め、実名を公表して東京地裁に提訴した。
しかし同年8月、不法行為から20年が過ぎているとして、損害賠償請求権を失う「除斥期間」に相当すると判断されて敗訴。「わいせつ行為があったかどうかを全く審理していない」として現在控訴中だ。
石田さんは、教員による性暴力の実態を調べるため5月11〜31日、ウェブ上でアンケートを実施。
回答者は女性約8割、男性約2割で、有効回答717人のうち在学中や卒業後に教員から「性的な経験、性暴力被害にあった」と回答した人は42・4%に上った。
複数回答で内容を聞いたところ、「体を触られる、触らせられる」29・2%、「性的な行為をされる、させられる」7・7%だった。
回答を分析した石田さんは「生徒の身体の成長について指摘したり、授業内の指導の補助などで体を触ったりするなど、生徒にとっては違和感があっても指摘することも容易ではないと思われる。
レイプ被害の記述もあり驚かされる」と話す。
わいせつ処分、18年度過去最多
文部科学省によると、2018年度に児童生徒へのわいせつ・セクハラ行為などを理由に処分を受けた公立学校(小中高校など)の教職員は282人で過去最多を更新。
初めて200人を超えた13年度(205人)以降、14年度205人▽15年度224人▽16年度226人▽17年度210人――と200人台で推移する。全教職員に占める処分者の割合は各年度で0・02〜0・03%だった。
性被害に詳しい上谷さくら弁護士によると、加害者となる教員には「俺は頑張っているから何をしても許される」「みんな俺のことが好きなんだ」などと認知のゆがみが生じている場合が多く、子どもへのわいせつ行為を正当化する傾向が強いという。
被害防止のためには「自分以外の人が勝手に体を触ってはいけないことや、それなのに触ってくるような怖い大人がいることを伝える性教育が欠かせない」と指摘する。
上谷弁護士は「教員になる人は真面目な人が多いので、原則懲戒免職というのはインパクトが強くて抑止力になるのではないか」と評価。幼児期からの教育についても「性暴力撲滅には最も大事なこと」と実現に期待を寄せる。
一方、わいせつ教員の処分数は氷山の一角との指摘もある。教員による子どもへの性暴力の調査は、教育委員会が主体になるからだ。
上谷弁護士は「加害教員が行為を否定したら、処罰されないケースもある。加害教員と被害児童生徒を同じクラスにしない程度の配慮しかせず、不登校になる子どもも多い」と指摘。
そのうえで、性暴力を調査する第三者機関創設の必要性を強調し、「学校がすべて対応するのではなく、学校内の問題をきちんと調査して解決する独立機関の設置が被害者救済につながる」と話す。
(全文)
https://mainichi.jp/articles/20200723/k00/00m/040/142000c