新型コロナウイルスの感染拡大により、会社側の都合で従業員を休ませた場合、本人に支払う「休業手当」が注目されるようになった。法律に定められた制度だが、普段の給料より安くなり、不況の影響を受けやすい職種はさらに低い金額になっている。働き手の生活は守られておらず、ルール改正を求める声も上がっている。
口座への振込額は460円だった。この夏、タクシー運転手の男性(72)=福岡県飯塚市=がもらった月給。「もう笑うしかないよ」とあきれ果てた。
緊急事態宣言中の4〜5月、客は激減した。売り上げも下がり、月給は手取り2万〜3万円になった。
会社から仕事を休むよう言われたのは、その後。出勤しなくても最低限の給料を出すと告げられた。そうして休んだ月、出勤予定日が少なかったこともあり、給料は休業手当を含めても1万円弱に。税金を引いた手取りが460円だった。
休業手当は休みに入る前の賃金や、出勤を予定していた日数が少ないと安くなる。そのあおりを受けた。
ぜんそくや心臓の病気に苦しんできた。出勤を増やして感染すれば重症化しかねない。不安は尽きない。
「休んでも最低限のお金が出ると聞いたら、やっぱりその気になるわね。それがこの額じゃ、『なんやあ』って言いたくなるよ」
∞∞
労働基準法は、会社の都合で従業員を休ませる場合、「平均賃金の6割以上」を休業手当として支払うよう義務付けている。違反すると30万円以下の罰金を科す規定も。では、どうやって計算するのか。
まずは平均賃金。月給の人の場合、休みに入る直前3カ月の賃金総額を、その3カ月の総日数で割った額が、1日分の平均賃金になる=図参照。
この日額の6割分と、働くはずだった日数を掛け合わせると、平均賃金の6割の休業手当を計算できる。
計算式によると、月給30万円の人(土日休み)が1カ月休んだときの休業手当は13万2千円。30万円の44%だ。休業手当は「給料の6割」と誤解されがちで、受け取った後に戸惑う人は多いという。
手当の額が安いのは、働く予定だった日数分しか支給されないルールにも理由がある。休日分はなく、金額はおのずと少なくなる。
さらに、コロナ禍では「直前3カ月」の賃金で計算する方法も問題視された。給料が歩合制のタクシー運転手のように、休みに入る前の収入が激減していると、休業手当も大きく落ち込むためだ。
例えば、普段は30万円の給料をもらっている人のケース。仮に月給が休業直前の3カ月間、15万円に減っていると、休業手当は6万6千円。30万円のわずか22%になってしまう。
先のタクシー運転手と同僚の男性(61)は、会社の指示で休んだ2カ月間、休業手当を含めた月給が手取り5万円台だった。「最低でも生活できるくらいは出ないと、たまらんです。会社が負担してでも、もっと上げてほしい」。休業手当を、コロナの影響がなかった昨年末の3カ月分で計算するよう求めている。
∞∞
従業員が会社都合で休んだ際の賃金は、民法も支払いを義務付けている。労基法と違い、労働者は給料全額を請求できるとする内容。しかし、行政も企業も罰則のある労基法を重視する傾向にある。民法に沿って全額を支払う会社は少ないようだ。
労働問題に詳しい指宿昭一弁護士(東京)は、コロナ禍で解雇されたタクシー運転手らに向き合ってきた。「直前3カ月」の少ない収入で休業手当が安くなる例は、飲食店の従業員や語学学校の講師にも起きているという。
指宿弁護士は「平均賃金を休業直前3カ月の総日数で計算する今のルールでは休業手当も安くなってしまう。平均賃金を算出するのに総日数を使うのだから、休業手当も出勤予定日だけでなく、休日分を含めて支払う制度に改めるべきだ」と指摘する。
さらに、労働基準監督署は休業手当を支払わない会社を速やかに是正勧告し、罰則を厳格に適用する▽民法に基づいて給料全額を支払う裁判例を積み重ね、この運用を定着させる−ことを提言している。
(編集委員・河野賢治)
西日本新聞 2020/9/29 17:00
https://www.nishinippon.co.jp/sp/item/n/649309/
口座への振込額は460円だった。この夏、タクシー運転手の男性(72)=福岡県飯塚市=がもらった月給。「もう笑うしかないよ」とあきれ果てた。
緊急事態宣言中の4〜5月、客は激減した。売り上げも下がり、月給は手取り2万〜3万円になった。
会社から仕事を休むよう言われたのは、その後。出勤しなくても最低限の給料を出すと告げられた。そうして休んだ月、出勤予定日が少なかったこともあり、給料は休業手当を含めても1万円弱に。税金を引いた手取りが460円だった。
休業手当は休みに入る前の賃金や、出勤を予定していた日数が少ないと安くなる。そのあおりを受けた。
ぜんそくや心臓の病気に苦しんできた。出勤を増やして感染すれば重症化しかねない。不安は尽きない。
「休んでも最低限のお金が出ると聞いたら、やっぱりその気になるわね。それがこの額じゃ、『なんやあ』って言いたくなるよ」
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労働基準法は、会社の都合で従業員を休ませる場合、「平均賃金の6割以上」を休業手当として支払うよう義務付けている。違反すると30万円以下の罰金を科す規定も。では、どうやって計算するのか。
まずは平均賃金。月給の人の場合、休みに入る直前3カ月の賃金総額を、その3カ月の総日数で割った額が、1日分の平均賃金になる=図参照。
この日額の6割分と、働くはずだった日数を掛け合わせると、平均賃金の6割の休業手当を計算できる。
計算式によると、月給30万円の人(土日休み)が1カ月休んだときの休業手当は13万2千円。30万円の44%だ。休業手当は「給料の6割」と誤解されがちで、受け取った後に戸惑う人は多いという。
手当の額が安いのは、働く予定だった日数分しか支給されないルールにも理由がある。休日分はなく、金額はおのずと少なくなる。
さらに、コロナ禍では「直前3カ月」の賃金で計算する方法も問題視された。給料が歩合制のタクシー運転手のように、休みに入る前の収入が激減していると、休業手当も大きく落ち込むためだ。
例えば、普段は30万円の給料をもらっている人のケース。仮に月給が休業直前の3カ月間、15万円に減っていると、休業手当は6万6千円。30万円のわずか22%になってしまう。
先のタクシー運転手と同僚の男性(61)は、会社の指示で休んだ2カ月間、休業手当を含めた月給が手取り5万円台だった。「最低でも生活できるくらいは出ないと、たまらんです。会社が負担してでも、もっと上げてほしい」。休業手当を、コロナの影響がなかった昨年末の3カ月分で計算するよう求めている。
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従業員が会社都合で休んだ際の賃金は、民法も支払いを義務付けている。労基法と違い、労働者は給料全額を請求できるとする内容。しかし、行政も企業も罰則のある労基法を重視する傾向にある。民法に沿って全額を支払う会社は少ないようだ。
労働問題に詳しい指宿昭一弁護士(東京)は、コロナ禍で解雇されたタクシー運転手らに向き合ってきた。「直前3カ月」の少ない収入で休業手当が安くなる例は、飲食店の従業員や語学学校の講師にも起きているという。
指宿弁護士は「平均賃金を休業直前3カ月の総日数で計算する今のルールでは休業手当も安くなってしまう。平均賃金を算出するのに総日数を使うのだから、休業手当も出勤予定日だけでなく、休日分を含めて支払う制度に改めるべきだ」と指摘する。
さらに、労働基準監督署は休業手当を支払わない会社を速やかに是正勧告し、罰則を厳格に適用する▽民法に基づいて給料全額を支払う裁判例を積み重ね、この運用を定着させる−ことを提言している。
(編集委員・河野賢治)
西日本新聞 2020/9/29 17:00
https://www.nishinippon.co.jp/sp/item/n/649309/